見覚えのある爽やかな笑顔。
癖のある深いブラウンの髪。
穏やかな雰囲気。
もしかして・・・八重樫さん?
「遅えよ。もうみんな始めちゃってるからな」
「ごめん、ごめん。帰りがけに電話が入っちゃって」
「もういいのか?」
「ああ。ただの確認事項だったから」
八重樫さんは男性幹事の高松(?)さんとにこやかに話をして、ネクタイを少し緩めた。
「はーい。こちら遅れてきた海外事業部の八重樫さんでーす」
「遅れてすみません。八重樫です。よろしくー」
高松(だっけ?)さんとにこにこ話をした後、名前だけの自己紹介をした八重樫さんは周りにぺこぺこと手を合わせたまま軽いお辞儀をした。
やっぱり八重樫さんだったと懐かしくなる。
「すみません。ビール一つ」
と八重樫さんは爽やかにおしぼりを持ってきてくれた店員さんに声を掛けた。
「種類は何にいたしましょう?」
「え?一択じゃないの?」
「ここ、ビールの種類が豊富なんだ」
「へー。面白そう。んっとねー・・・・」
八重樫さんはにこやかに話していて、相変わらず人当たりが良さそうだった。でも、昔より年を取ってて、「仕事できる」感が増していた。
八重樫さんはかつて営業部にいた先輩で、私は八重樫さんのサポートで書類を作ることが多かった。
基本的な書類の作成方法は指導係の先輩に教えてもらったのだが、細かいことはやっていくうちに慣れるからと言われて指導が終わった。
分からなくて聞くたびに嫌な顔をされるが、分からないので質問するしかない。
次第に気まずく成ってしまい、途方に暮れていたところを八重樫さんが助けてくれたのだ。
分からないところを丁寧に教えてくれ、仕事の面白さを教えてくれたのも彼だった。
彼のおかげで今は人に質問される側になるくらいにまで、仕事を覚えることができたのだ。



