比留川は僕の隣に座った。

くちゃくちゃと音を立ててガムを噛み、癪にさわるにやけ顔を僕に向けた。

こいつは人を不快にさせることに関しては天才かもしれない。


「やるねえ。決めるべき時に決める。さすがはレギュラー様だねえ」


僕は無視を決め込んだ。


意に介さず比留川が続ける。

「俺にゃあ無理だ。くちゃくちゃ。あの球は打てねえよ。くちゃくちゃ。バットに、くちゃくちゃ、かすりもしねえよ。くちゃくちゃくちゃくちゃくちゃ。運よく当たったとしても、くちゃ、ポテンヒットがいいとこだろう。くちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃ……」


「だったらその辺で素振りでもしてたらどうだ?」

我慢できず答えてしまった。


「ぺっ!」

比留川が僕の足元にガムを吐き捨てる。

「お前にいいことを教えておいてやるよ。世の中にはな、いくら努力しても報われない奴らがいるのさ。それこそ血のにじむような苦労を重ねたって、すべてが無駄に終わっちまうんだ。そういう人間が最後にどういう選択をするかわかるか?」


もう、うんざりだった。

深いため息を吐いてグラウンドのほうに目をやった。

依然としてチームの攻撃が続いており、追加点が入りそうな気配だったが、いらいらして試合に集中できなかった。


「ところで、みちるちゃんとはうまくいってるのか?」

比留川がみちるの名前を口にすることが腹立たしかった。

みちるが汚されてしまったような気さえする。

この男はどこまで僕の神経を逆撫ですれば気が済むのか。