こんな目に遭わされても許すなんて、どれだけお人好しなんだ。

「僕もそう思うよ。『許す』の一言で済まされるような話ではないと思う。でも、夫としては許すと言ってくれた宝に感謝したい気持ちもある」
そう言って1度俺の顔を見た後、野崎さんは畳に額をあてて
「俺が言うことではないが、宝はすべてを自分で抱え込む気でいる。事件のことも妻のことも、宝には何の責任はないけれど、彼女は自分の責任のように感じている。・・・どうか、宝を守ってやって欲しい」
そう言ったきり、頭を上げようとはしない。

今まで、恨んだり恐れたりしてきた奏太の父親。
しかし、彼は彼なりに苦しんできたんだと思えた。
そして、失うことなど恐れずに1度本気で宝に向かって行けと言われている気がした。

「分かりました。宝と話してみます。だから頭を上げてください」

野崎さんはやっと頭を起こした。
「ありがとう」

そう言われて、俺はなんだか吹っ切れたような気になった。
10年の呪縛から解き放たれたような気分だった。