宝の店を出た俺は、書店や文具店をいくつか回ってから病院に向かった。
土曜日だけあって、院内の人影もまばらだ。

職員通用口から階段を上がって、5階の医局へ。
最近は病院の近くにもスポーツクラブが増え、ジムに通うスタッフも増えている。
俺だって健康管理に興味がないわけではないが、金をかけてまで行こうとは思わない。
その代わりと言っては何だが、俺はエレベーターを使わないことを自分に課している。
外来は1階。病棟は5階。医局は 7階。
1日に何度も、階段を上がり降りする。

はあはあ。
一気に5階まで上がって、乱れた息を整える。

「桜井先生。お疲れ様です」
ちょうど上の階から降りてきたのは、外科の研修医和泉紗花(いずもさやか)

「お疲れ様。今日は勤務?」
「ええ。救急外来です」
彼女も明日鷹の彼女と同じ研修医1年目。

2人は義姉妹だそうで、仲もよく一緒にいるところをよく見かける。

「君は、大丈夫?」
ふっと顔を覗き込む。

今病院は、桜子ちゃんと明日鷹が渦中の人。
それに伴って、親友であり姉妹である彼女にも注目が集まっている。
色々と噂されているのを知らないはずはない。

「私は平気です。桜子が悪いわけではありませんから。言いたい人には言わせればいいんです」
強い言葉。

きっと、彼女も憤っているんだろう。
言葉と同じくらい強い眼差しをしている。

「森先生は大丈夫ですか?」
「明日鷹?」
「ええ。チラホラと異動の噂が聞こえてきます」
ちょっと言いにくそうな彼女。

「そうだね。それは・・・あいつの問題だから」

「そうですね。すみません。出過ぎた事を言ってしまいました」
そう言うと頭を下げる。

「いいよ。心配なのはみんな同じだから。ただ、もう少し見守ってやろう。あいつも色々考えているはずだから」
「はい」
それ以上は何も言わず、彼女は救急外来へと降りて行った。