「おまたせしました」
俺と明日鷹にコーヒーが運ばれてきた。

2人とも、コーヒーの好みはブラック。

一口飲むと、
「「はぁー」」
そろってため息が出た。

「うまいね。やっぱり宝の入れたコーヒーが一番旨いよ」
普段言わないようなことを言う明日鷹。

宝も目を丸くして、不思議そうに見つめる。

「どうしたの?それに、明日鷹が恋愛なんて信じられないんだけど」
確かに、あの聖人君子みたいな明日鷹が恋するなんて、想像できなくても不思議じゃない。

「本当に、恋してるの?」
カウンター超しに見つめる宝。

「ああ」
明日鷹が、ちょっと顔を赤くする。

こいつだって、さすがに35歳まで恋愛経験なしってことはない。
俺も、明日鷹が付き合った女性の何人かは知っている。
でもそれは、向こうからかなり積極的に迫られて付き合っていた感じで、明日鷹はいつも冷めた顔をしていた。

「俺をもてない男みたいに言うなよ」
ちょっと不機嫌そうな明日鷹。

「そんなつもりはないけれど・・・お前が人前で女の子を叱り飛ばすとか、言うことが聞けないなら指導医を降りるなんて恫喝するとか、色っぽい格好をした彼女に露骨に不機嫌になるとか、今までの明日鷹からは想像つかないよ」
「そうかなあ?」
「そうだよ。なあ?」
話を聞いていた宝に振ると、ウンウンと宝が頷く。

「ぜひ、見たかったわ」
真顔で言う宝に、俺たちは笑い出してしまった。