あれから三年が経った。
 子供たちは小学三年生に。

「はい、OKです!」と、監督さんの声。

 今日はうちのリビングで、とある空気清浄機のCM撮影をしている。出演者はパパと、一歳になった私の娘、羽花(うか)。撮影が始まる前に、一日の流れの説明と共に見せてもらった絵コンテの通り、順番にひとつひとつのシーンを撮り終えていく。ちなみに撮影現場を見るのは初めてで、子供たちと私は、興味津々。

 邪魔にならないように、荷物置き場になっている寝室で「上手く行きますように!」と、ドキドキしながら撮影を見守っている。

 今、監督さんと彼、スタッフさんで撮れたものをモニターで確認している。

「大丈夫そうですね、これで全部撮り終えました。お疲れ様でした!」

 撮影が終わった。羽花が出来るだけ普段通りでいられるようにと、本番中、外で待機していたスタッフさんたちが入ってきた。そして撮影に使った道具の片付けを始める。

 私はリビングのふわふわした白い絨毯の上で眠っていた羽花を抱っこした。

 監督さんに話しかけられる。

「奥様、今日は素敵なお家を使わせていただき、撮影にご協力くださり、本当にありがとうございました」
「こちらこそ、貴重な体験をさせていただき、ありがとうございました」
「子供が遊べるスペースもあって、本当に綺麗で素敵なおうちですね」
「ありがとうございます。夫が、家建てる時に子供が過ごしやすいようにって考えた設計なんです」
「そうなのですね。生田さんらしいです。生田さん、いつも撮影現場でもひとりひとりに気を遣ってくださるし、羽花ちゃんが産まれたばかりの頃かな? 現場一緒になった時、奥様の寝不足や子供たちのことをとても心配されていたりもして、素敵なパパなんだろうなって、スタッフと話していましたよ」

 噂の彼を見ると、スタッフさん達と一緒に撮影道具を片付けていた。

 はい! 私の夫は世界一素敵です!
 私は心の中で叫んだ。
 
 皆がいなくなり家族だけになると、彼は大きなため息をついた。

「こんなに撮影で緊張したの、初めてかも。羽花がきちんと笑ってくれるのかな?とか、眠ってくれるかな?って。そんな理由で撮影緊張するなんて、考えたことなかったな」
「私もすごく緊張した。無事終わって良かったね! 羽花とパパの共演、放送されるの楽しみ!」

 私もほっとしながらそう言った。