「さくら！」


体育館から移動する列の途中、私のすぐ前を歩くあい子がこっそりと振り返る。


「よかったね、同じクラスで」


あい子の言葉に小さく頷いた私は、そこで初めて安心した感覚に体を包まれ軽く笑みを零した。


「今日からうちらも高校生か。楽しくなるといいね」


そう話すのは小林あい子。

私、小峰さくらとは小学校からずっと一緒の大切な親友。


内気で人見知りな私と違って、明るく活動的なあい子はショートカットがよく似合う美人。

誰にも媚びることがなくて、だけど、誰に対しても誠実で。

こんな私を見捨てないでそばにいてくれる。


甘えているんじゃないか……。


その優しさにそう思うこともあったけれど、あい子はずっと私の友達でいてくれた。



「高校生、か…」


ぽつり、と私の独白はそっと春の緩やかな風に溶けて消えた。


……ほんと、楽しい高校生活になるといいな。