「少しだけいいかな?」
ホームルームが終わるといつもはすぐに部活動に向かう高瀬くんなのに、今日はまっすぐ私のところへやってくる。
窺うような言い方とは裏腹に、その手は私の腕を強引に引くから私は視線を落としたまま従う。
周知の事実になった途端、人前でも遠慮なく私に触れる。
この教室内ではいいかもしれないけど、1歩外に出たらそれを知らない人にどう思われるか分からないんだよ。
「本当にごめん」
人目の少ない空き教室で何度目かの謝罪を繰り返すと、高瀬くんは深々と頭を下げる。
「絶対に小峰さんを傷つけさせないって言ったのに、あんなことまでさせて…」
顔を上げても目線は伏せたまま言葉を紡ぐ姿は、なぜか彼の方が傷ついているようだった。
どうしてそんな哀しい顔をするの?
傷ついているのは私のはずなのに。
それは、私を動揺させてつけ込むための演技なんでしょう。