「輝次第だから!」
最後に捨て台詞を残して、村上さんは教室を飛び出していった。
それはいったい、なにを意味するのだろう。
「ごめん、とりあえず俺の使って」
高瀬くんは私に自分の教科書を差し出すと、教室を出ていく。
隣のクラスの橋本くんに借りてきたのだろうか、鳴り始めたチャイムとともに戻ってきたその手には、教科書が握られていた。
「どうした?席着けよ?」
チャイムが鳴り終わる頃、数学教師の稲葉先生がいつものように気怠げに教室にやってきた。
私は慌ててただの紙切れと化した教科書やノートを片づける。
周りも空気を読んでか、なにも語らない。
教師にこんなものを見られたら、話が大きくなるに決まっている。
そうなれば不利益を被るのは村上さんだけじゃない、私だって同じ。
「なんだよ…」
いつもは騒がしいのにシンと静まり返った教室を、稲葉先生は不審げに見回す。