―――無我夢中で人混みの合間を縫った。
思考が空っぽになって、無心で足を動かすだけの私は、脳がいっさいの仕事を放棄して心を守ろうとしているみたいだ。
なにも考えたくない。
記憶を消してしまえたら。
なにもかもなかったことにできたら。
それが実現できたらどれほど楽だろう。
どんどんと遠ざかるより一層、賑わいが増した喧騒に、私の周りを静寂が支配し始めると会場の出口が見えてきた。
夜闇の揺らぎのない佇まいに、吸い込まれるように足を踏み入れようとした。
その時――…
「小峰さん!」
背後から名前を叫ぶ声に、は、と意識が呼び戻される。
同時に引かれた腕に、稲妻に貫かれたような衝撃が体を走った―――。