「…め、て」


伸びてくる腕を思いきり振り払う。

パシリ、と思ったよりも大きな音が辺りに響いた。


いつもと違う私の様子を感じ取ったのか、みんなの間に緊張が走るのが見ていなくても分かった。


「こみ…」

「やめて!」


それでも私に向かってくる高瀬くんを、今度は声を張り上げて遮る。

隣に立つ結衣ちゃんの驚いた顔が、視界の端にちらりと映った。


こんな茶番、もううんざりだ。


「…ごめん、帰る」


辛うじて結衣ちゃんにだけ聞こえるか聞こえないかくらいの声を喉の奥から絞り出すと、私は踵を返してその場から駆け出した。


「え、さくら!」



結衣ちゃんの呼び止める声がしたけれど、すぐに人混みに紛れた私を追ってくることはなかった―――。