2人の姿が完全に見えなくなったところで、村上さんが動いた。
「小峰さん、だっけ?」
突如、彼女の口から飛び出た自分の名前に大袈裟に心臓が反応する。
ざわめく教室の中でも、喧騒に負けず凛と響く静かな声。
その声音には、嘲笑するような色が混じっていて嫌な予感しかしない。
恐る恐る顔を向ける。
「大人しそうな顔してなかなかやるのね」
したり顔で、見透かすような意味深な笑みを浮かべる彼女に、ドキン、ドキン、と不快な鼓動がスピードを増す。
「不特定多数の男に媚びて、上手いこと取り入って…。男好きのビッチ」
「ちょっと…!」
冷たい声で吐き捨てると、チャイムの音とともに彼女は教室を出ていった。
言い返そうとしたあい子の声が、不完全燃焼のようにチャイムの余韻に散った。
教室中が、動揺と好奇に揺れていた。