本格的に暑くなってきた時期。放課後の教室。
 一番前の真ん中の席で私は、日直の仕事である日誌を書いていた。

「なぁ」
「えっ?」

 誰もいないと思っていたのに突然声が聞こえて私は振り向いた。すると彼が教室の後ろに立っていた。
「はい……」
「なぁ、相田さん、俺のこと、めちゃくちゃ見てない?」

 突然言われたから私は戸惑う。
 しかも冷たい口調。

「あ、あの……」

 上手く言葉が出てこない。

「いや、気のせいだったら別にいいんだけど、なんか俺に言いたいことあるの?」
「別に……ない、です」
「そっか、なら良いんだけど」

 何事もなかったかのように彼は教室から出ようとする。私は急に何か話しかけたくなった。

「あの、瀬戸くん!」

 彼はドアの前で振り向く。

「何?」

「あ、あの、瀬戸くんは、優しいですから!」

 うわっ! 何言ってるの私!
 どうしよう、突然何?って感じだよね?

「ははは!」

 すると彼が全力で笑いだした。

「突然、何? 面白いな!」

 予期せぬ、おもいっきりの笑顔。
 私の心は大きくときめいた。