「はは! すごい顔!」
 あ、一翔くんが笑った。

 ずっと冷たくて、空気が張り詰めていたから、その笑顔でそれは解けていった。

「クルールに初めて行った時にはすでに知ってた。行く前にこの記事を見て、見た瞬間に唯花だって気づいたんだ」

 しかも下の名前でまた呼んでくれた!

 バレていたという驚きの気持ちと共に、心の距離が元に戻った気がし、ほっとして胸をなで下ろす。

「そうなんだ……じゃあ、お店に来た時にはすでに私だって知ってたんだ」

「あぁ、知ってた。とりあえず、座ろっか」

 彼と私はソファーに座る。

「えっ? 待って? 私、ずっとバレないようにしないとって思ってた。学校とお店で話し方も変えてたし……」

 知ってたってことは、もしかして私、無駄な悩みを抱えていた? 隠そうとしなくても良かったの?

「一生懸命隠そうとしてるのも、可愛かった」
「可愛かったって……」

 不意に言われた言葉に私は照れる。

「それよりさ、和哉、あの後、否定してきたんだけど、本当は、アイツと付き合ってるんでしょ?」
「違う! 和哉くんとは何もないよ! 付き合ってない!」
 私は首を振り、全力で否定した。

「付き合ってない証拠は?」
「証拠って……じゃあ逆に、付き合ってる証拠もないじゃない?」
「……」
 彼は黙り込む。

 どうしよう。喧嘩みたいな雰囲気になってきちゃった。

「私ね、好きな人がいて、その人に一途なの!」
「好きな人、いるのか……」
「うん」

 私はうつむいた。それから上目遣いで彼を見たのだけど、彼の視線は左下を向いていた。
 何かをじっくり考えている様子。

 言いたい、今、目の前にいる一翔くんが好きだって。

 好きな気持ちを伝えるのって、こんなにも難しいんだ。いつも人には『しないで後悔するのなら、して後悔したほうが良い』って、告白のアドバイスはしていたけれど。