「なぁ、さっき、和哉となんか親しげだったけど……何話してた?」
 私を家まで送ってくれた時、一翔くんは怒り気味にそう言った。
「ううん! 特に何も! ただの世間話だよ」
 わぁ、嘘ついちゃった。
 ごめんね、一翔くん。

「そっか……」
「うん! 送ってくれて、ありがとね」

 彼に背中を向けて、家の中に入ろうとした時、彼は大きめな声で言った。

「なぁ、和哉になびくなよ?」
「えっ?」

 なびくって何? 別に一翔くんと付き合っているわけでも、両想いなわけでもないのに。

「じゃあ、おやすみな」
「うん。一翔くん、おやすみ」
「あ、下の名前で呼んでくれた!」

 そういえば、下の名前で呼んでって言われてから、意識しすぎて苗字ですら呼べなくなってた。今、すらっと『一翔くん』って呼べたな。

 彼は無邪気な笑顔でほほえむ。

 その表情を見るだけで私の胸の鼓動は高まり、顔が火照る。
 精一杯の平然を装い「うん、下の名前で呼んだよ! おやすみ!」と返した。
 
 そういう笑顔、私にだけ見せてくれているのかな?って、ちょっと思っちゃう。それだったら尚更。

 ――一翔くん、その笑顔、反則!