「カーディガン、持ってくればよかった」

 雨が降っているせいか、少し肌寒い。
 二の腕をさするわたしは、今日もひとりで下校する。
 ミントグリーンの傘をひらけば、ポツポツと雨のはねる音が響く。雨は嫌いだけれど、この音は割と好きだ。
 遠くの空は、うっすらと明るい。
 明日はきっと晴れるだろう。そう思うと、少しだけ心が軽くなった。

 カフェオレか、ミルクティーか。何処かで温かい飲み物でも買おう。そう考えながら校門をくぐる。
 右に行けばコンビニが。左に行けばカフェがある。

 右か、左か、………。

 左に向けた顔が、そのままの角度で止まる。ぱちりと瞬きをしても、消えてなくなりはしない。

 見間違い、じゃない。……彼、だ。

 透明のビニール傘をさした彼がいた。わたしが貸した、あの傘を持って。
 彼が立っていた。

「傘、」
「あ、……うん」

 彼のほうからやってきた。
 今日は学校を休んだはずなのに、制服の上にパーカーを羽織った彼が、傘を差し出している。