「じゃあ、また明日」
「ばいばーい」
「じゃあね」

 教室を出ていく心音たちに手を振った。このあと何処かへ遊びに行くらしい。
 毎回のように誘ってくれるものの、わたしがそれに乗っかるのは、三回に一回くらい。
 友だちといえども、いつもベッタリくっついて行動していたら、気疲れしてしまう。

「ふぅ」
 
 自然と漏れた息は、決して彼女たちのせいじゃない。問題はわたしにある。

 スクールバッグから小説を取り出す。十数ページほど読めば、校内も随分と静かになるはず。
 雲ひとつない、澄んだ空のような色の栞を挟んだページ。そこから数ページほど読み進めたとき。

 そういえば…。

 ふと、後ろに視線を向けた。教卓の目の前に座るわたしからは、贅沢だと言いたくなる彼の席。
 昼休みが終わっても、そこは空席のままだった。

 ふらっと現れては、すぅっと居なくなる。
 人に合わせることはしないし、傷ばかり作ってくるくせに。整った顔立ちのおかげで、怖がられるどころか、アイドル並みに人気がある。

 どれだけ騒がれていたとしても、気にする様子は見られない。
 人にどう見られているか、なんてことも。きっと、気にしないのだろう。

 ちょっとだけ、うらやましい……かも。

 そう思った。