「保健室で、傷の手当てとか」
「したーい!」
「してあげたーい」
心音もひかるもそう言うばかりで、実際には遠巻きに眺めているだけ。
「あ。今日も来てる。ラッキー」
遅れてやってきた谷美空が、心音の背中に覆い被さる。ニカッと笑顔を見せる彼女もまた、彼を眺めているだけ。
「今日はね、こっちにできてた」
ひかるが自分の左頬を指でつつく。美空は、マジか、と言うと、彼のほうへ視線を向けた。
入学当初、彼と仲良くなるために、何度か話しかけてみたものの、まったく相手にされなかった彼女たち。こっそり眺めては、入手した情報を共有しているのだ。
わたしは、というと。
彼女たちや、他にも彼に好意を寄せている子たちのように、きゃあきゃあと、一緒になって騒いだりはしない。
彼は、「別世界の人間」だから。身近に感じられないせいか、興味も湧かない。
「そういえば。昨日、傘を貸してあげたの」
なんて。彼女たちに言ったら、大騒ぎするだろう。
貸した傘の行方が気になるけれど、彼に確認することはできないし。
登校してきて早々、机に突っ伏して眠る彼に向けて、わたしは小さく息を吐き出した。



