人づきあいは苦手。だけど、ひとりで居たいわけじゃない。
 友だちは必要。でも、深く付き合う気はない。狭く、浅くってかんじで。
 傷つかないためには、そうすることが最適だと思った。
 だから、昨日の自分のとった行動が信じられなかった。今も、まだ。

 べつに、傘を貸したくらいでどうにかなるとは思っていない。けど、彼に向けて、点線を書いて繋げてしまったような、そんな感じがして、複雑なんだ。

『傘は?』
『傘。持ってんのかって、訊いてんの』

 あぁ、そうだ。先に点線を書いてきたのは、わたしじゃなくて、彼のほうだった。

 彼は、わたしとどうにかなりたいなんて、これっぽちも思っていないだろうし。
 点線は点線のまま。一本の線になることはないだろう。

「ねぇ、見て見て」
「昨日は右で。今日は左だよ」

 クラスメイトで友だちの、相田心音(あいだここね)落合(おちあい)ひかる。ふたりの視線の先には、やっぱり彼がいた。
 彼、柳田昇矢(やなぎだしょうや)は、ふらっと教室に入ってくると、誰かと挨拶を交わすこともなく、自分の席につく。
 窓側から二列目の、いちばん後ろの席だ。毎日きちんと来るわけでもないのに、いちばん後ろの席だなんて、ズルいとしか言いようがない。