滲み出る涙の、その意味はわからなかった。深く追求するなんてできない。ただ、彼に気づかれないように堪える。今のわたしには、それしかできない。

 わたしの気持ちを知ってか知らずか。彼は、「うそ。冗談」と言うと、右の口角を上げた。

「………え?」

 トドメを刺された、と言うべきか。ぎゅうっと、鷲掴みにされた心臓が痛い。
 一度目とは違う、からかいを含んだ笑顔を見せた彼は、細くてゴツゴツした指で空き缶を連れ去っていく。

 正直、目が離せなかった。
 彼が教室を出ていくその時まで、わたしの視線は彼に張りついたまま。
 彼の姿が見えなくなってからは、空き缶の置かれていた机をぼんやりと眺めていた。

 涙が引っこんだあとで気づく。
 彼の羽織るパーカーのサイズ感や、袖口からのぞくゴツいシルバーのブレスレットまで。
 いつもは気にもとめなかったものが、どれもわたし好みだった、と。
 その上、邪魔でしかないと思っていた顔の傷ですら、彼の一部なのだと受け入れている自分がいた。

「……うそ、でしょ」

 彼に向けて書いた点線が、線になる。
 それはもう、誤魔化しようがない。