「最初が肝心…か」

 彼はすんなり受け入れたようだ。
 ふざけるな、とか。生意気だ、とか。文句のひとつやふたつ言われると思った。
 それどころか、彼は、フッと息を漏らしたのだ。

 嘘でしょう?……今、笑った?

 驚いて顔を上げたわたし。気づけば、思いっきり彼の顔を見つめていた。

 「国宝級」なんて言葉が、当然のように浮かんでくる。
 まじまじと、彼の顔を眺めることなんてなかったから。
 吸い込まれそうな薄茶色の瞳や、スッと通った鼻筋。血色のよい唇。そのどれもが、バランスよく配置されていることに気づく。
 彼の笑顔はきっと、最高に綺麗であるに違いない。
 だから余計に、張りついた傷が邪魔なのだ。

 彼は一気にコーヒーを飲み干すと、組んでいた長い足をほどいて立ち上がる。

「帰る」
「え?……あ、…はい」
「瀬戸は?」
「わたしは、まだ。これを読んだら」

 慌てて小説を胸元に寄せると、彼は、ふぅん、と言ってわたしの机の上に空き缶を置いた。そして。

「捨てといて」と。

 ………え?

 そんなこと、言われると思わなかった。
 思わなかったから、ぽかんと開いた口が塞がらない。

 ちょっと待って。