人さし指で自分の顔のあちこちを指す。
視線を合わせるのは、やっぱり苦手だ。顔はなんとなく彼のほうへ向けたものの、それ以上は無理だった。
諦めて、缶コーヒーを持つ彼の手に視線を置く。
「なんで敬語?」
「え?」
「この前と、態度がぜんぜん違う」
「………」
この前というのは、いつ。
……と言っても、彼と接した機会は二回しかない。
「傘を、……貸したとき?」
「そう」
考えてみたら、そうかもしれない。確かに違う。
あのとき、彼は。
舌打ちするし。ため息も吐くし。人の傘を勝手に持っていこうとするし。不機嫌そうな顔はするし。顔じゅう傷だらけだし。
「柳田くんと話をするのは、初めてだったから。最初が肝心、っていうか。強気でいかないと、って思ったの。なめられたら困ると……思ったから」
だから敬語も使わず、口調もきつくなってしまったんだ、と。
言ったあとで、やっぱり後悔してしまう。いつも言葉を選ぶはずなのに。
彼に対する恐怖心と緊張が、わたしの心をかき乱す。うまくいかない。言葉を、いちいち選んでなんかいられない。



