「やらかしちゃったかも」
「何を?」

 ママの淹れてくれた紅茶を啜る。ピーチだ、と言うと、ママはにっこり微笑んだ。

「なんでもない。ちょっとした、ひとりごとってやつだよ」
「なに、それ」
「んー。なんだろう?」

 ママに言っても理解できないだろう。
 心の奥のほうがモヤモヤとするこの感覚は、自分でもすぐには理解できそうにないし。

 学校で、ひとり過ごすこと。
 集団の中で、ひとり佇むこと。
 傘を盗ること。
 傘を返しに来たこと。

 今、わたしの頭の中の半分以上が彼に占領されている。
 それはもう、厄介としか言いようがないことなのだけれど。油断すると、どうしても浮かんできてしまうのだ。

 彼は、傘をひらいただろうか。
 星空をひろげた彼は、どんな表情をしていたのだろう。
 バイクの後ろに跨る彼の表情が、空っぽに見えてしまったのは何故だろう。

 よく知りもしない彼のことを思い浮かべていたら、なんだか切ない、って。声に出してしまった。