***


 彼は雨がよく似合う。

 透明な傘の向こう側。水分の抜けた金色を眺めていたら、そんな言葉が浮かんできた。


「傘、返ってきたの?」
「うん」
「よかったじゃない」
「うん。わざわざ持ってきてくれたの」
「そう」
「うん」

 玄関の傘立てに戻った星柄の傘。なかなか戻ってこない傘の行方を、ママも気にしてくれていたみたいだ。

「寒かったでしょう?何か飲む?」
「紅茶がいい。なんか、甘いやつ」
「甘くするの?」
「ううん。香りが甘いの。そういうのが飲みたい気分」

 スクールバッグを床に置き、ソファにどしんと腰を下ろす。
 彼は、わざわざ来てくれたのだろうか。ずっと待ってくれていたのだろうか。
 頭の中でぐるぐる回る。

 傘を貸したくらいで、彼とどうにかなるとは思っていない。
 ……いなかった、けど。
 彼に向けて書いた点線が、うっすらと線になってしまったのかも。

 点線は点線のまま、いつか消えてなくなるものだと思っていたのに。
 一本の線になることはないだろうと、思ってたのに。