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 あの日も、雨が降っていた。
 十月に入ってすぐの、週末のことだ。


「ここで待ってて」

 大通りから少し入ったところにある、隠れ家レストラン。
 久しぶりの家族三人での外食を終え、パパが近くの駐車場に停めた車を取りに行く。ママとわたしは、店を出てすぐの場所で待機することにした。

「まだ降ってる。夜には止むって言ってたのに」

 随分と細かな雨だったけれど、ママはピンクの花の描かれた傘をひらく。わたしはその中にスルリと潜りこむと、ママと同じように空を見上げた。

「もしもし?………うん。そうだね。わかった」

 短い通話を終え、スマホをバッグにしまったママ。

「パパが、やっぱり大通りまで出て来て、って。そのほうが早いわ。この辺り、一方通行ばかりだった」

 そう言って、肩をすくめた。
 なぁんだ、と言ったわたしは、持っていた自分の傘をひらく。
 数日前に買ってもらった、紺色の生地に白い星が散りばめられた傘。前に使っていた傘が、本屋の傘立てから忽然と姿を消したせいだ。

「あの辺りでいいのかな?」

 大通りを指さし、すぐ後ろを歩くママに訊いたときだった。
 遠くでバリバリと、嫌な音がした。