そして10分後、私が到着すると既に彼はそこにいた。待たせちゃったかな……。
「ごめんなさい、遅くなった……」
「全然大丈夫だよ!それじゃあ行こうか」
彼は優しい笑顔を浮かべると私の手を握った。えっ……!?いきなり握るなんて聞いてないよ……。心の準備がまだなのに……。でも、せっかく勇気を出して繋いでくれたんだもん。私もそれに応えないと……。私は覚悟を決めて彼の手を握り返した。
こうして私達は学校を出てデートへと出発した。
「ねぇ、どこに行くの?」
「うーん……。そうだなぁ……。とりあえず街に出ようか」
「分かったわ。あっ、そうだ。ちょっと待っててくれない?」
「いいけど……何かあったの?」
「すぐ戻ってくるから!」
私はそう言い残すと走り出した。向かう先はトイレ。実はさっきから行きたかったのだ。ただ、恥ずかしくてなかなか言えなかったのだが、今なら行ける気がする。という訳で、私はトイレへと向かった。
用事を済ませた私は再び待ち合わせ場所に戻った。しかし、そこにはもう彼の姿はなかった。帰っちゃったのかしら……。
しばらく待っていると後ろの方から声をかけられた。振り返るとそこには知らない男の人が立っていた。誰この人……。私は怪しむような目つきでその男を見つめていた。
「君一人?良かったら俺と一緒に遊ばない?」
ナンパ……よね……。きっと……。
「結構です」
私はきっぱりとお断りをした。しかし、男はしつこく食い下がってくる。
「そんなこと言わずにさ!ほら、こっち来てよ!」
男が強引に腕を引っ張ってきた。痛い……。やめて……。嫌だ……。怖い……。助けて……。誰か……お願い……。その時だった―――。
「おい!何やってんだよ!!」
聞き慣れた大好きな人の声が聞こえてきた。私はすぐに振り返る。やっぱり来てくれた……。私は涙が出そうになるほど嬉しかった。でも、泣いてる場合じゃない。私は彼に助けを求めることにした。
「ま、誠太くんっ!!」
「なんだお前は?関係ない奴は引っ込んでろ!!」男がそう怒鳴ってくる。それでも彼は怯まずに私を助けようとしてくれている。本当に頼れる人だ。そんな時、私の身体がふわりと宙に浮かび上がった。私は思わず目を瞑ってしまう。すると、いつの間にか地面に下されていた。恐る恐る瞼を開くと、そこには彼が私を抱き抱えてくれていた。
「大丈夫?」
彼は心配そうな表情で私を見てくる。
「うん……。ありがとう」
私は安堵して笑顔を見せる。彼はそんな私を見て安心したように微笑んでくれる。ああ……幸せだなぁ……。
「クソッ!!覚えておけよ!」
男は捨て台詞を残して逃げていった。
「葵ちゃん、怪我はないかい?」
「はい!大丈夫です!」
「そっか、それはよかった」
彼は優しく笑ってくれた。いつも通りの笑みだ。それがとても嬉しくて幸せな気持ちになる。それからしばらくの間、私は彼から離れなかった。ずっとこのままでいたいな……。私はそう思いながら彼の温もりを感じていた。