「知ってる?あの子って…」
教室に居ればどうでもいい人の悪口で盛り上がる女子会が開催、

「あごめん!こいつのせいだからー!」
廊下を通れば、猿みたいにはしゃいでる男子とぶつかり、イライラする。

未歩「一向に馴染めないな」

野いちご学園高等部2年生になった紅松未歩はクラスの雰囲気に馴染めずにいた。
1年生の頃は三学期になるとクラスに馴染めて楽しんでいたがクラス替えがあり、また初めからやり直しのため気分が下がっていた。

未歩「(でもまだ5月だよ…?!)」

そんなことを思いながら未歩は生物室へと向かった。

未歩「絢人!」

絢人「また来たの?あと学校では結城先生と呼びなさい」

結城絢人、理科の先生でありながら未歩の幼なじみである。未歩が幼い頃から家によく来ていたため、家族に近い存在である。

未歩は生物室の椅子に腰をかけ、絢人は作業をしている。放課後にはよく見かける光景である。

絢人「それで未歩ちゃんは友達できたの?」

未歩「席近い女の子とは話したよ!だから最近はその子と仲良くしようと思って!」

絢人「男子とも仲良くした方がいいよ、高校生は」

未歩「いや、チャラい人ばっかで自分からは話しかけられない」

絢人「珠洲島くんみたいな子はそうそういないもんね」

珠洲島環という図書委員の男子、図書委員会の担当をしている絢人は環と話す機会がよくあり、仲が良い。そのためいつの間にか未歩と3人で話すことが増え、未歩と環も仲良くなっていた。

絢人「未歩ちゃんがずっとかっこいいって言ってる東条くんは?」

未歩「無理に決まってるじゃん!3年生だし!怖いし!」

絢人「全然ありだと思うけど。そういえばこの前珠洲島くん、最近未歩が来ないーって寂しがってたよ」

未歩「別に環くんとそこまでの仲じゃないから!仮に言ってたとしても今日は早く家に帰らないと!絢人もね!」

絢人「え、なんで?」

未歩「今日私んちでご飯食べるって言ってたじゃん!」

絢人「あーごめん、今日は予定入ってて…」

未歩「ママにも言っちゃったんだけど!」
「しかも今日家1人なんだよ?」

絢人「ほんとごめんね」
「一緒に来る?」

未歩「いやいいよ!予定って、例の人…?」

絢人「そ、そうだけど!」

例の人というのは絢人が最近本屋さんで出会った女性である。よく通ってるうちに話すようになったらしい。

未歩「じゃあまた進展あったら教えてね!」

そう言って生物室を出ていった。


図書室のカウンターで環は寝ていた。

声をかけようとすると、とある男子が本を借りようと未歩より先に環に声をかけた。環は眠そうな顔で本を貸す手続きをしていた。そんな環を見てその男子は笑っていた。きっと2人は仲がいいのだろう、そう思いながら未歩は微笑ましく見ていた。

男子が帰ったタイミングで環に声をかけた。

未歩「今の子、友達?優しそうな子だね」

環「よく図書室来てるからいつの間にかに仲良くなったんだよね」

未歩「名前なんて言うの?」

環「蓮見直月だよ」

未歩「え!風紀委員の?」

環「うん」

蓮見直月、風紀委員ということもあり、服装にはかなり厳しい。だが綺麗な顔立ちと堂々とした立ち振る舞いから女子の中でも評判が良い。

未歩はもう少し顔を見ておけばよかったと後悔していた。

環「結城先生と話してたの?」

未歩「うん、それがさ!聞いてよー!」

会話に一段落つくと、未歩は帰ることにした。


学校から家までは駅から一駅分のため自転車で行ける距離である。だが今日は朝から大雨だったため電車で来た。

電車をおりると雨は止んでいた。

歩いていると猫が一匹、こちらを見つめていることに気がついた。

未歩「可愛い!」

未歩の存在に気づきながらも、歩いている姿が可愛らしく、いつの間にかに未歩は猫を追っていた。

川沿いをひたすら歩くと、他の猫の元へ駆け寄った。

未歩「仲間いたんだね、よかったね」

猫に癒されて、帰ろうとした時、川に架かった橋の下に誰かがもたれかかって倒れているのが見えた。

未歩はただの酔っ払った男かと思い、無視しようとしたがよく見てみると同じ制服を着ていることに気がついた。

慎重に寄ってみると怪我だらけだったため急いで声をかけた。

未歩「とりあえず消毒するので待っていて下さい!」

たまたま近くにコンビニがあったため、そこで手当てに必要な物を買うことにした。
行こうとするとその男子は未歩の腕を掴んだ。

「勝手に助けようとすんじゃねえよ」

掠れた声だが確かにそう言った。未歩は恐怖で立ち止まってその男子の顔を見つめていたが、突然声を上げた。

未歩「東条朝都だ」

朝都「知ってんなら早くどっか行け」

東条朝都、生徒会長をしながらも暴走族の総長もしている。勉強も運動もでき、容姿も完璧だが女嫌いが激しいといわれている。

それを知っていた未歩はここで帰ったらこの後一生話すことが出来ないのではないかと思い、帰ろうとしなかった。それに加え、帰ることができる状況ではなかった。なぜなら朝都は力強く未歩の腕を握ったまま離していたなかったからだ。

不思議に思った未歩は朝都の顔を見つめた。すると気絶していた。

未歩「え、どうしたらいいの!」

動揺しながらも深呼吸をして、外の音に耳を傾けた。聞こえるのは虫の鳴き声。日もかなり沈んでいる。

思考回路を停止させた未歩はとりあえず朝都を指でつついた。

未歩「あの、やっぱりコンビニ行ってきます。」

朝都「家この辺だからいいって…」

立ち上がろうとするがなかなか立ち上がれなかった。

朝都「そこに突っ立ってるだけなら肩貸して」

未歩「は、はい」

いつの間にかに従っていた。