「という話。面白いだろう?」
「あ、嗚呼……」
僕は初めて聞く御伽噺を嬉々として話すちゅう秋に、戸惑う。なんでそんなに嬉しそうなんだ、こいつ。
「まあ、この話はバットエンドだからね。子供たちに聞かせるのは賛否があるんだけど」
「……その話、ひがしの言ってた夢と合致してるんじゃないか?」
「その通り。探偵くん、相変わらず鋭いね」
ニコリと笑みを浮かべるちゅう秋に、僕は眉を寄せた。やっぱり胡散臭さが拭えない笑顔に、複雑な心境に なる。
「それで? その御伽噺がそのうわんたちとどう関係があるんだよ?」
「もちろん、関係はない」
「じゃあなんでそんな話」
「でも、話の中にうわんたちは出て来なかっただろう? つまり、それは他の要因がかかって来ていると考えていい」
パチンと指を鳴らす彼は、自信満々に笑みを浮かべるとゆったりと足を踏み出した。かつりと踵を鳴らし、まるでスポットライトが当たった演者のように、中心へと歩み出す。彼の足元が舞台の一部に見えたのは、気の所為なんかじゃない。
「うわんたちを従えているのは、ホウソウシと呼ばれる鬼だ。『みやこ』を呪っているのはその人物となる」
「人物って、そいつ人間なの!?」
「ああ」
「陰陽師の中でも有名な犯罪者だよ」と続けるちゅう秋の表情は、全く変わっていない。
(以前こっくりさんの上位互換って言ってたのに……!)
あれは僕たちを気遣った嘘なのか。それとも何か意図があったものなのか。愉快犯ではないことを祈りつつ、僕はちゅう秋を見つめる。ちゅう秋は「ごめんね」と一言告げると、どこからか紙を取り出した。白い紙に書かれた、五十音順に並んだ文字と、そのてっぺんにある神社のマーク。
「ちゅ、ちゅう秋くん、それは」
「彼女たちがこっくりさんに使用した紙だよ」
「「「⁉」」」
「この大学内に隠されていたから、貰ってきてしまったよ」
ニコリと笑みを浮かべる彼は、紙を見せつけるようにひらひらさせる。その顔はどこか怒っているように見えるのは、きっと気のせいだろう。
(つーか、こっくりさんの紙が残っているって……!)
こっくりさんといえば、珍しくその終わり方までがしっかりと記載されているはずだ。こっくりさんを終えたら、紙をお祓いし、燃やすこと。――それを怪奇現象執筆サークルの『みやこ』メンバーが知らないとは、到底思えなかった。現に、全員が驚いた顔でちゅう秋の手元を見ている。
「そ、それ……なんで……」
「ちゃんと燃やしたはずじゃ……!」