「先輩、気持ち悪い」
「お前、とことん失礼だな」
探偵少年の容赦のない言葉に、僕は睨みを利かせる。「本心っすから!」と満面の笑みを浮かべた彼に、プロレス技を仕掛けた僕は、悪くないと思う。

――そんな幸福な日々も、終わりを告げる時が来る。否、これは終わりというよりは、引き戻されると言った方が間違いではないのだが。
「何で僕が」
「いいじゃないか。俺に付き合うと思って」
そう言って「ははっ」と軽く笑う彼に、僕はため息を吐く。
いつだったかと同じ、黒い車でちゅう秋に拉致され、気が付けば見覚えのある大学まで運ばれていた。件のサークルのある教室は、以前とは違い自分とちゅう秋、そして探偵少年と岡名を初めとした怪奇現象執筆サークルの『みやこ』のメンバーが揃っていた。
(今度はいったい何なんだ)
訝し気に周囲を見回した僕は、肩を落とす。……来てから気づいていたが、ここはずっと暗い空気が漂っている。まるでお通夜みたいだ。
「ちゅう秋、そろそろ理由を聞いてもいいか?」
――僕たちが何故、此処に連れて来られたのか。
「そうだそうだ!」
「まあまあ、落ち着いて」
ちゅう秋はムスッとする探偵少年を宥めるように声をかけると、彼は組んでいた腕を離し、岡名たちを見つめる。話が始まると察したのだろう。彼らはちゃう秋の方を見ると、沈んだ表情のまま彼を見つめた。
「実は今朝、岡名さんから連絡があってね。また進展があったという話なんだけれど」
「進展?」
「……ああ」
沈んだ声で頷く彼。歯切れの悪いその返事に、僕は違和感を覚える。……どことなく前よりもやつれているように見えるのは、気のせいだろうか。
「ちゅう秋くんには先に話したんだけどね。……最近彼女たちの周りで起きているよくない事が激化しているんだ」
岡名の言葉に、僕たちは目を見開く。
「良くないことって、悪戯のことですか? それとも、“うわん”のことです?」
「“うわん”?」
「……犬の妖怪のこと。私たちの後ろでいつも騒いでる奴らのことよ」
「真偉さん、よくご存知で」
僕の問いに岡名が首を傾げれば、たちまちひがし京が助言をする。その言葉に称賛の声をあげたのは、ちゅう秋だった。
にこやかに笑うちゅう秋に、彼女は視線を落とす。その頬は以前よりも痩せこけていて、異常なほどのストレスが彼女の身に降りかかっているのがわかる。そんな状況ではさり気ない褒め言葉も、今の彼女には特に効果はないようで。