キョトンとする彼女に、僕は息を飲む。目を見開いた表情は記憶よりも少しだけ大人びていて、けれど次の瞬間には視線が逸らされてしまう。その反応に不味いことを聞いたのかと焦りが込み上げてくる。
「あ、いや。嫌なら別に」
「……結構いい感じ、かも」
「え?」
「テスト」
頬を僅かに染めて、ふふっと笑う彼女。その笑顔に一瞬目が奪われてしまったのは、気のせいだ。
「……そう。よかったな」
「うんっ」
(ああくそっ)
心臓の音がうるさい。幸せなんて感じている場合じゃないのに、どうしてこんなにも単純なのだろう。僕はコホンとひとつ咳払いをして空気を変えると、程よく焼かれた魚に箸を突き刺した。ほろりと落ちる身は、柔らかくて美味しい。
(……そういえば)
ふと思い出す、あの日。忠告のようなものを受けたような気がするが、あれはいったい何だったのか。
(丁度いい)
どうせ聞くなら、いつ聞いても一緒だろう。
「……なあ。どうしてあんなこと言ったんだよ」
「えっ?」
「“後輩と話すな”って」
そう告げれば、彼女は心底驚いたように目を見開いた。さっと逸らされる視線は、何かを隠しているようで。
「な、何でもな……」
「ないわけないだろ」
「……」
黙りになってしまった彼女に、僕は顔をしかめる。……疚しいことでもあるのだろうか。
(彼女に限って? そんな訳あるか)
「ああいうの、お前は冗談でも言わないだろ。何か理由があって言ったんじゃないかって……」
「あ、えっ」
「ああいやっ、別に俺のためとかそういうんじゃなくって」
(何て言えばいいんだこういうの!)
込み上げる焦りに、思考が乱されていく。そんな状態で解決策なんて出る訳もなくて。
「僕は察することなんて出来ないから、何か理由があるなら言ってくれるとわかりやすい……ってだけなんだけど……」
「う、うん。そ、うだよね」
俯く彼女。僕はその反応を見て、複雑な心境になる。もっとちゃんと伝えたいのに、全然上手い言葉が出てこない。
(何が小説家のたまごだ……っ)
小説みたいに上手くいかない現実に、頭を抱えたくなる。後悔にも似た気持ちが込み上げてきては、自分の首を締めていく。ちらりと盗み見た彼女は、少しばかり戸惑ったように視線を巡らせ、小さく息を吐いた。頬が赤いのは、気のせいだろうか。
「あ、あのね。別にあの子が嫌いとか……そういう事じゃなくてね」
「う、うん」
「……ちょっと、嫌な噂を聞いちゃったから、不安になっちゃって」
そう告げる彼女に、僕は首を傾げる。