虚しいとも、悲しいとも違う。ただ、見送った二つの背中が自分を置いて行くような気がして。
(馬鹿馬鹿しい……っ)
――嗚呼、本当に僕は馬鹿だ。彼等と同じ土俵に、一般人である自分が立てるわけもないのに。
少年は思う。――自分には関係ない事だと。しかし、彼は目の前の光景を見ずにはいられなかった。
披露宴。その数日前に、朝紀は実験としてこっくりさんをしていた。元々、次の執筆に役立つと思ってやっていたのだろう。そんな雰囲気だった。しかし、当然と言うべきか、必然と言うべきか。力のない人間がやった降霊術が、成功するはずがないのだ。そんなの、少し考えればわかることだったが、怪奇現象に魅入られた彼女たちは動く十円玉を見て嬉しそうに騒いでいる。
(あの女が動かしているだけなのに)
一体何の目的なのか。乗せた指先であちこちと力を込めて移動させる彼女に、少年は呆れてしまう。そんなに自分の望んだ世界がいいか。そんなもの、本当にあったらつまらないだろうに。真偉の目に目薬を差してやっている彼女の姿を“過去”としてみた彼は、テレビの電源を切るように瞬きをする。
「だから人間は愚かなんだ」
少年は真偉に寄り添う朝紀から視線を逸らし、紀偉を見る。楽しそうに話している彼女は、さっきから岡名の隣から離れようとしない。それだけで大体彼女の考えている事はわかってしまうのが、心底残念だった。
紀偉の過去は、ただただ岡名への恋慕と強い真偉への羨望と嫉妬ばかり。でも、逆を言えばそれだけだった。
「……悪い事の一つくらいしているかと思ったのに」
やっている事といえば、真偉の目がないところで岡名にアピールしているか、執筆サークルで執筆に精を出しているか。それくらいだ。
(つまらんなぁ)
ここまで大人しいと逆に怪しく見えてくるが、現時点では全くと言っていいほど何もしていない。略奪の一つくらいは考えているだろうが、自分にとってそんなもの微塵の興味すら沸いてこない。少年は視線を逸らすと、次に会場の隅で立っている女性に目を向けた。暗い服装をしているからか一瞬壁と同化しているように見えたが、彼女は間違いなくサークルのメンバーだ。その証拠に彼女の近くには誰かしら人がいる。
「人好きなお嬢さんか」
(まあ、それも事件とは関係がないのだろうけれど)
嗚呼でも、人好きならば彼女の交友関係は推理の糸口になるかもしれない。さっと彼女の周囲を見回す。彼女を取り囲むお偉いさんが起こしている不祥事が時折見えるが、それを指摘するのは今じゃない。後で週刊誌にでもタレ込んでおくかと思いつつ、少年は一人一人を注意深く観察した。――ふと、違和感を感じた人物を見て、少年は固まる。