「探偵くんも、わざわざ来てくれてありがとう」
「こっちこそ、情報提供感謝する!」
「なんで上から目線なんだよ」
「僕は神だからな!」
胸を張る少年に、もう呆れしか浮かばない。
(本当にこいつは、予想外の事しかしでかさないな……)
「はあ……まあいいや。それで、僕たちを集めた理由は?」
「その事なんだけど、長話になるしどこかのお店に入ろうか」
ちゅう秋の言葉に、僕が一瞬不安そうな顔をしたのがバレたのだろう。「大丈夫、俺が持つよ」と笑い、足を進めていく。小遣いがかなり少なくなっていたから、その申し出は有難いのだが……。
(そんなに大事な話なのか?)
それならばどちらかの家に行った方がよかったのではないか。そう考えるも、ちゅう秋が選ばなかったのにも何か理由があるのだろう。僕たちは顔を見合わせると、彼に連れて行かれるまま足を進めていく。迷いのない足取りに、連れて来られたのは見覚えのある喫茶店だった。
「此処……」
「この前、妻に連れてきてもらってね。結構雰囲気も良かったし、男だけでも問題なさそうだったからいいかなと思って」
そう告げる彼に、僕はそわそわと店内を見回す。確かにちゅう秋の言う通り、一人で新聞を読んでいる男性や、仕事の休憩で寄ったらしい男性がちらほらと座っていた。僕は心持ち緊張しながら喫茶店に足を踏み入れる。どこかアンティーク調の店内を見回しながら、ソファ席へと通された。
「うわあ……すげえ……」
「ははっ。探偵くんはこういうところあまり来ないのかい?」
「はじめてだな!」
物珍し気に周囲を見ていた探偵少年は、そう答えるとどかりとソファに腰かけた。手早くメニューを取った彼は、内容をずらりと見ていく。その視線は初めての経験にはしゃいでいる子供のようにも見える。その光景にほんのり微笑ましさを感じながら、彼の向かいにちゅう秋と揃って腰掛ける。
「何か食べたいものがあれば遠慮せず頼んでくれて構わないよ」
「じゃあコーヒーとプリンとー」
「待て待て」
「何だよ。羨ましいなら先輩も頼めばいいじゃん」
「そう言う事じゃない!」
けろっとして告げる彼に、僕は首を横に振る。そういうのは社交辞令であって、本気にしていいわけではない。それを伝えようにも、キラキラとした笑みを浮かべる彼に水を差すのは少し心が痛む。罪悪感にも似た感情が込み上げてくる。
「……もういい」
「えー?」
はあとため息を吐いて、僕は隣の席からメニューを拝借するために立ち上がった。メニューを手に取れば、綺麗な字でおすすめが書かれている。探偵少年の言っていたプリンはどうやら此処の看板メニューらしい。
(美味しそうだな)