静かな空間に、少年の澄んだ声が響く。おふざけのないそれは、まるで朗読を聞いているような気分になる。最後まで黙って聞き終えたひがしは、ゆっくりと俯く。
「レイクズ、ジャンピングフィッシュ……」
「その言葉に、お心当たりは?」
「…………あるわ」
彼女が小さく頷く。その言葉に、僕たち三人は食いつくように目を向け、耳を澄ませた。彼女は周囲を確認すると、すっと岡名の後ろに下がると、小さく耳打ちをした。何を話しているのかはわからなかったが、少しして躊躇った様子の彼女は視線を彷徨わせた後、意を決したのか戸惑いがちにこちらを見つめ、話し始めた。
「レイクズジャンピングフィッシュは、私たち『みやこ』が調べている、一つの怪奇現象なの」
「怪奇現象?」
「そう」
――レイクズジャンピングフィッシュというのは、一つの怪談話のようなもので「転生前の誰かの声が聞こえる」という摩訶不思議な出来事らしい。聞いた人の話によれば、その人の前世らしきことを話しているのだとか。その噂を耳にした『みやこ』のメンバーたちは、その真偽を確かめる為に最近いろいろな調査へと出かけていたのだそうだ。件の高校に行ったのも、その一環だったという。
「それを調べるためにこっくりさんまでしたんだけど……まさかこんな事になるなんて……」
静かに俯くひがし京。彼女の顔は晴れない。
「でも、その声が転生前……前世の声って言うのは、本当は違ったみたいなの」
「違った?」
「ええ」
探偵少年の問いに、彼女はこくりと頷く。
「転生前の声は、レイクズジャンピングフィッシュのことだったというか……彼女の本心だったの」
「え?」
(どういうことだ……?)
彼女の言葉に、僕は耳を疑う。レイクズジャンピングフィッシュの言い伝えが、『彼女の本心』だった……? そんな事、あるのか。言い伝えと違うという話に、僕は困惑する。例えるなら、七不思議の一節が違っていて知らない怪異が出て来てしまったという感じだ。
(って言っても、情報を整理したところで全然わからないんだけど)
自身が見える体質ならば何かアドバイスなどをすることが出来たのだろうが、流石にそういった力は持ち合わせていない。それどころか、ホラー案件などは苦手な部類だ。昔に読んだホラー小説が恐ろしく怖かったのが、未だにトラウマなのである。全てはその小説を勧めて来たちゅう秋のせいだ。
「そのレイクズジャンピングフィッシュが、あなたたちに悪戯をしているんですか?」
「ううん。たぶんだけど……ちょっと違う気がするの」
「それは直感で?」
「ええ」
「ふむ、なるほど」