(誰かいるのか!?)
勢いよく振り返り、立ちはだかる扉を勢いよく開く。ガシャンと騒々しい音がし、見えた室内で目が合ったのは──一人の男子生徒。驚いてこちらを見る彼は、分厚く丸い眼鏡をかけ、両手に授業に使う文房具を持っていた。ネクタイの色を見れば、彼が二年生であることがわかる。
(いた……!)
──探偵少年は無垢だった。故に、無造作に髪を流し一見陰気臭くも見える彼に目を輝かせて、飛びついたのだった。

夏の終わり、秋の始まり。涼しくなってきた晩秋の季節を割って入るような大声に、僕は情けない声を上げながら持っていた小説を落としてしまった。バサバサと床に落ちるそれを拾い上げれば、追い打ちをかけるような激しい物音が響いた。軽い引き戸が勢いよく開かれたらしい。
「いた!」
(……誰?)
目を輝かせる探偵少年に、僕は目を見開く。ネクタイの色を見れば、彼は一学年下のようだ。しかし、探されるようなことはしていないし、そもそも彼との面識が全くない。声を聞いたのだって初めてだ。それなのに何故。
首を傾げ、思考を巡らせる。……こんな陽気な人間、もし先に会っていたら忘れないと思うんだけれど。そんな思考を切るように彼は両手を机に叩きつけた。仮にもこちらは先輩であるというのに、気にした様子は全くない。それどころか、顔をずいっと近づけてくると、その爛々とした顔でとんでもないことを言い放った。
「俺に依頼をくれ!」
「はあ?」
他人の言葉に、これ程純粋な声が出たことがあっただろうか。顔を思い切り顰め、彼を見つめる。整った顔に何度言えない気持ちが込み上げてくるが、残念ながらその視線は真剣そのもので。
「……一番最初から説明してくれ」
「あ」
唖然とした阿呆面をした彼はそのまま数秒止まると!ゆっくりと前のめりになっていた体を戻し、こほんと咳をひとつ。ニヤリと不敵に笑みを浮かべ、彼は仰々しく頭を垂れた。
「これはこれは、大変失礼いたしました。俺……じゃなかった、僕はこの街で探偵を営んでいる、言わば神!」
「……かみ?」
「ええ!」
探偵少年は頷く。どこから来ているのか分からない自信をありありと見せつけながら、彼は続ける。
「森羅万象、過去現在未来に至るまで、僕は神というものを信じていない。でも、人は何かに縋らないと生きていけないほど脆い……。だから僕は自分が神になることにしたんだ!」
「……うわぁ」率直な感想を述べるのであれば、何言ってるんだこいつは、という呆れ。