遠距離恋愛は人をダメにする。

ふと振り向くと、さっき浴場で一緒だった悠実だった。

それもさっきの悠実とは違い、なにか好奇心に満ちた眼をしていた。

「ねぇ、ねぇ、晴良ちゃん」

何となく言いたいことはわかった。

「誰?誰?」

やっぱり。
私と一緒にいる男子、優くんが気になるみたいだ。

「ただの知り合い」

私は淡々と答えた。

優くんも桃香ちゃんとのLINEのやり取りをするために自分のスマホを見ていたが…私が誰かと話をしているので、こちらを見る。

すると、悠実は顔を少し赤くして…私の腕にしがみつく。

「あ、中学校の友達」
私は優くんに答える。

優くんはコクリとお辞儀をする。

「うわっ」
私の腕をかかえながら、悠実は小さく声を出す。

「どうも、はじめまして」
優くんは…こんなの慣れてるよ的に、悠実に話しかける。

「あ、どうも」
悠実はがんばって声を絞り出す。

ははっ。
この悠実も…こんな感じになるんだぁ。
私は驚くと同時に笑えてきた。
何にも動じない子だと思ってたのに。

しかし、このふたり。
会話が続かない。

当たり前だ。

お互いに…何を話していいのか…わかるわけない。

ふぅ。
私が間に入るしかない。
面倒臭い。

「えっと、私のお母さんの知り合いの…」

「あ、さっき、晴良ちゃんが言ってた…サウナ一緒に入ってるって言ってた…人の?」

「そう。そう。優くんです」

「高校生?」

ぷっ

私は…思わず、優くんを見て、吹き出した。

「はぁ?」
優くんはわざと怪訝そうな顔をするが、それはあくまでもノリで…

「いや、違う。違う。私たちと同じだよ。中1」

「えええっ、そうなの?ヤバい」

悠実の驚き方が面白くて、私と優くんが笑う。

「何がそんなにヤバいの?」

「ヤバ過ぎるって、ヤバ過ぎ。何、このイケメン」

「いやいや、違うって」
優くんが、ヤンワリと否定する。

「うん。全然、イケメン違うて」
なぜが私までも否定する。

「だって、こんな人、私たちの学校に1人もいないし」
悠実が大声で言う。

「悠実、声…」
私は周りを気にしながら…シーって指でやる。

すると
「そう?昼に会った彰くんだってイケメンじゃない?」

そう優くんが言うと…

急に悠実の顔が強ばる。

「えっ、えっ。あれ?なんで?」
悠実がとっさに私を見る。

「彰くんと会った?彰くん知ってるの?」
悠実がさらに私に問いかける。

あっ

これを悠実に説明するのは…ちょっと難しいかもしれない。

説明するには…菜々も絡んでくる。

菜々と彰くんの関係って、みんなも知ってるんだろうか?
いやいや、いつも一緒にいる私だって、この前、菜々から直接教えてもらったぐらいだ。

でも、公然の秘密じゃないけど、薄々みんなも気付いているかもしれない。

ましてや、悠実は彰くんと同じソフトテニス部だ。

男子テニス部と女子テニス部の繋がりは知らないけど、誰が誰と繋がってて、菜々と彰くんの話をしているかもしれない。

ヤバいな。

「ほら、昼、イオンで会ったよね。小学校から一緒だったって言ってたじゃん」

優くんがさらりと言う。

「ああ、そういうことね」
悠実は、普通に納得してくれた。

「って、何、何、晴良ちゃん、イオンでデートしてたんだ。隅に置けないなぁ」

「は?デート?誰と?」

そう言うと、悠実は優くんを指した。

「はぁぁぁ」
私は顔を真っ赤にして否定、完全否定をする。

とりあえず、優くんのナイスフォローで…菜々と彰くんの話は回避出来た。

さすが、空気を読むのが得意な優くんだ。

さらに、その空気を読む優くんがとんでもないことを言い出す。

「えーと」
優くんが私を見る。
改めて…名前を教えて…と目で訴える。

「悠実ちゃんね」

「悠実ちゃんは…」