遠距離恋愛は人をダメにする。

「ただいまぁ」

「お帰りなさい」
「あれ、晴良ちゃん、大きくなって。お久しぶりね」
「あんたらどこ行ってたの?」

矢継ぎ早に2人の母親からの言葉が続く。

「お久しぶりです」
「扶桑のイオンに行ってた」

「扶桑?あなたたち2人きりで?」

「菜々たちと」

「菜々ちゃんね。優くん、田舎過ぎて、ごめんね。この子の同級生なのよ」

「いいえ、そんなこと無いですよ。楽しかったです」

私と私の母親。そして優くんと優くんの母親。4人の会話が錯綜する。

そこに…

「おっ、優じゃん。すげー、俺より背が高いし」

私のお兄ちゃんも参戦する。

「あ、朋くん。お久しぶりです」

確かに2人が並ぶと、優くんが頭1個分大きい。
でも、優くんの方がお兄ちゃんより顔は小さい。
優くんの方がイケメン。

「めちゃ格好良くなって」
私の母親が言う。

「どこかのアイドルかと思ったわ」
それに合わせて、お兄ちゃんまでそんなことを言う。

見事な敗北宣言。

「優くん、モテモテじゃない?」

「全然、全然」
お互いの母親同士が会話する。

「今、何やってるの?部活」

「ソフトテニスです」
やっと、優くんとお兄ちゃんとの会話が始まる。

「そうなんだ。こんな格好良くて、テニスなんて…王道だね」

「王道?」
お兄ちゃんの言葉に私が反応する。

「モテモテの王道。テニスの王子様だね」

「はぁぁ?」
私は…何、言ってるの?って感じでお兄ちゃんに返す。

「いやいや、朋くん。大袈裟ですよ」
優くんは…いたって冷静に返す。

「あ、これから食事に行くけど、焼肉でいいよね」
私の母親が子供たちに言う。

「別にいいけど」
「いいねぇ」
「はい」

「どこの焼肉?」
お兄ちゃんは、さらに母親に聞く。

「いつものところよ」

「たまには違うところでもいいんじゃない?」

「まぁ、そうだけど…って、あんたがいちばん食べるから食べ放題の方がいいんじゃない?」

「ま、そうだけど。優も食べるよね?量」

「そうね。食べるよね。この時期の男の子は本当に食べるよね」
優くんの母親が言う。

「じゃあ、あそこね」

江南は、ある通り沿いに焼肉屋がこれでもかって感じで乱立している。

約800mぐらいに5軒もの焼肉屋がある。

そのうちの一軒、焼肉の食べ放題が出来る店を選んだ。

この通りは食べ物屋さんが多く、回らない寿司屋から始まり、大衆食堂、ケンタ、居酒屋、焼肉屋、ピザ屋、ラーメン屋、焼肉屋、焼肉屋、回る寿司屋、松屋、モス、カレー屋、焼肉屋、ラーメン屋、うどん屋、中華料理屋、焼肉屋と恐ろしく食べ物屋が続く。

そのうちの最後の焼肉屋に行くみたいだ。

その焼肉屋を通り過ぎても、吉野家だのマックもある。

ただし、マックを最後に食べ物屋が一気に減るけど。

出かける前に少し時間があったが、私よりお兄ちゃんと優くんとの会話が弾んでいた。

聖蹟桜ヶ丘駅の周辺がどう変わったとか、あの店はまだあるのかだの、向こうの生活がほんの少し長かったお兄ちゃんの方が興味があるみたいだ。

さらに、高校2年のお兄ちゃんは、向こうの大学に行きたいらしく(成績は度外視)、大学に行くなら京王線沿線に住みたいだの、どこの大学の何学部すら決めてない癖に妄想は広がるばかりだ。
それにはさすがにママも呆れ返っている。

「そろそろ行こうか」
パパがそう言う。

ちょっと早いけど、これ以上遅くなると混む時間なので、優くんのお母さんと優くん。そして、私たち4人は…パパの車に乗って…

あれ?

パパの車に…

乗れ…ないやん。

頑張っても5人だよね。

ということで、お兄ちゃんは自転車で行くことになった。

「じゃあ、僕も」
と、優くんもお兄ちゃんと一緒に自転車で行こうとしたけれど、さすがにお客さんの優くんに自転車で行かせるのは…ということで…車に乗ることになった。

後部座席に、優くんのお母さん、真ん中に私。そして私の隣には優くんが座る。

でも、さすがに狭い。

「ごめんなさい。うちの車の狭くて」
と、恐縮するママ。

「あ、いいよ。いいよ。気にしないで」
と、優くんのお母さんは言うけれど…

優くん。
あなたが、いちばん場所取ってるんですけど…

私は優くんの身体とぺったりと密着してるんですけど…

だから、私は…頑張って優くんのお母さん寄りに身体を傾ける。

あ、菜々ちゃんからLINE。