遠距離恋愛は人をダメにする。

「あ、返信来た」

菜々が彰にスマホ画面を見せる。

【うん。桃香ちゃん知ってるよ】

ふたりは同じ画面を見つめた。

「知ってるんだ」

「あれだって。幼なじみに会うっていうより、旅行に行った場所がたまたまここだったってことじゃない?」

「じゃあ、それって優がその桃香っていう子に言ったってこと?」

「そりゃそうでしょう。旅行なんだもん。隠すことないでしょ。それとも何?彰くんなら隠すの?」

「い、いや、隠さないけどさぁ」

「本当かなぁ」

「本当だって」

「逆に隠されてたの晴良ちゃんの方じゃない?」

「え、なんで?」

「ほら、私たちがイオンにいた時…急に晴良ちゃんからLINE来たじゃん。今から会える?って」

「あ、そうか。あの時、優が来てるって驚いてたもんね」

「そう。晴良ちゃんは今朝まで知らなかった」

「あれ?あのふたりって…」

「ふたり?」

「あ、優と晴良ってLINEしてないの?」

「知らーん」

ふたりは、菜々の家の方に向かって自転車をゆっくり漕ぐ。

爽やかな風が吹き抜け…しばらくの沈黙。

そして、彰が
「菜々って、優みたいなのが同じ学校にいたらさぁ…」

「いたら?」

「やはり、格好いいってなる?」

「どうだろ」
菜々は知っていた。
この彰の質問は、彰の地雷だと。

今だって、学校で男子と話をしていただけで根掘り葉掘り聞かれるぐらい、嫉妬深い彰だ。

答え方を間違えると、彰は機嫌を損ねる。

“格好いい”なんて答えたもんなら、“じゃあ俺より?”ってなるに決まってる。

だから“どうだろ”って濁す。

でも、今日の彰はしつこい。

「ああいうの菜々のタイプじゃないよね」

「私のタイプ?何、それ?」

なんか、カンに触る言い方だ。

「いや、深い意味ないけど。ほ、ほら、菜々ってなんだっけ。ほら、なにわ男子の…」
しどろもどろになる彰。

何が…なにわ男子だ。
普段なら、なにわ男子の話をしても機嫌を損ねるくせに。

「高橋くんね」

「そ、そう。全然違うよね。その高橋って子と」

確かに…優くんは…晴良ちゃんが前から言ってたように…そして、今日、実物を見たけど、どちらかというとなにわ男子の長尾くんタイプだ。

いやいや、でも、だから…どうなんだ。

あ、待てよ。
もしかして、彰くんは彰くんなりに…あんな外見も内面もいい人を見ちゃったから…焦ってるのかなぁ。

取られるとか?

優くんに嫉妬?

確かに、この辺りにはいないタイプ。
だから、イオンのフードコートでも周りの女子がみんな優くんを見てたし。

ふふん。そうかぁ。

「うん。優くんはなにわ男子でいうと長尾くんタイプだから、私はちょっと…」

それを聞いて、少し安心する彰。

「いや、だから、優くんには彼女さんがいるって。それに東京の子だし」

「東京?それなんか関係あるの?」

「いや、遠距離って無理でしょ」

「そう?LINEあるし」

「いやいや、すぐに会えーへんやん」

「そうやけど」

「じゃあ、逆に…彰くんは桃香ちゃんが可愛かったら付き合えるの?離れてても」

なんだか、私も無茶苦茶なことを言ってる。

「可愛かったらかなぁ」

「はぁぁ?」

彰は、菜々の地雷を踏んだようだ。
正確にいうと、菜々が自ら地雷を撒いて、彰がその地雷を見事に踏んだ感じ。

「じゃあ、ここでいいわ」

「な、なんだよ。それ」

「じゃあね」
私は…道を曲がって、足早に去った。

「ちょ、ちょっと待てよ」
彰はそう言うものの、追ってはこない。

それはそれで腹がたつ。

彰は分かっていない。

彰に嫉妬心があるように、私だって嫉妬心はある。

もちろん、その嫉妬心の幅は人それぞれだけど、私だって嫉妬心ゼロじゃない。

本当に腹がたつ。