「あっくんとは、あっ、彰くんとは保育園が同じだったの」

「北保育園?」

「そう。本当は東保育園なんだろうけど、北保育園はお母さんの仕事場が近かったから」

「そうなんだぁ」

「保育園の時も好きだったの?」

「ほとんど覚えてない」

「そうだよね。保育園の時のことって。かなり、前だし」

「でもね。なんか私も彰くんも、2人とも覚えてたことがあったの」

「どんな?」

「私が滑り台から落ちたこと」

「はぁ?」
私は笑ってしまった。
今も昔も菜々なんだ。

「で?」

「滑り台を登ってた時に、なぜか手を離したらしいのね」

「は?なぜ?」

「そんなの知らないよぉ」

「知らないって」
またまた笑ってしまう。
そういえば、菜々って、そういうところがある。
今だって、予測不能な動きをする。
真っ直ぐ歩いてると思ったら、急に曲がってみたり、

それだけじゃない。
ふつう、私と歩いてる時だって、私が菜々の左側を歩いていても、急に左に曲がって私にぶつかってくる。

きっと、何か気になるものが目に入ると、それが気になって、周り(特に近くのもの)が見えなくんじゃないかと思う。

「それで?」

「それが、見事に落ちたわけですよぉ」

「いやいや、落ちたわけですよぉじゃないし」

「そして、ちょうど真下に彰くんがいて」

「えっ」

「見事に潰したわけで」

「潰した?」

「そう。完全に私の下敷きになって」

「で、どうなったの?」

「私はもちろん無傷」

「いやいや、彰は?」

「私の足の下に彰くんの顔があったかなぁ」

「えええっ」

「で、彰は怪我したの?」

「もちろん」

「もちろんじゃないしっ」

彰もとんだ災難だね。

「でも、この出来事の覚えてることはここまで。あとは、親から聞いた話なんだけど」

「保育園中が大騒ぎになって、保育園の先生が彰くんをおんぶして、病院に連れていったらしい」

「そりゃそうなるわ」

「何針か縫ったって言ってた」

「ええっ」

「で、その日の夜に、親と彰くんの家まで謝りに行ったらしいね」

「ま、そうなるわね」

「それで、保育園を卒園して、別の小学校になったんだけど」

「あ、そうだ。そう。小学校が違うのに」

「と、思うでしょ」

「は?何?」

「実はさっきの出来事にはあれで終わりじゃなくて」

「踏み潰し事件ね」

「踏み潰しって言うなっ」