「うーん。そうねぇ。いい人だよ。彰くんは…」

なんか菜々の歯切れが悪い。

「だって、仲良さそうじゃん」

「うん。いいよ」

「だよね。一緒に出掛けたりもするんだよね」

「うん。する」

「じゃあ、何…」
そう言ったところで始業のチャイムが鳴る。

「じゃあ、詳しくは部活の時ね」

「うん」

そうして、菜々以上に私の方がモヤモヤしたまま、1日を過ごす。

喧嘩した訳でも無さそうだし、だからといって菜々が彰くんのことを嫌いになった訳でも無さそう。

もちろん、彰くんに好きな子が出来たとかも無いだろう。
だって、彰くんは幼なじみの菜々のことをずっと思い続けたのだから。

そういえば、昨日、家に着いてからスマホを見たら、桃香ちゃんからLINEがあった。

【今日は楽しかったよ】
【大丈夫だった?晴良ちゃんのママ】

【うん。大丈夫だった】
【こっちこそ、楽しかったよ】

【良かったぁ】

【こっちこそ、デートの邪魔してごめん】

【全然、気にしてないから】
【また、いっしょに遊ぼうね】

【うん、ぜひぜひ】

やはり、桃香ちゃんはいろいろ気が使える子だ。
でも、逆に気が使えるということは、いろいろ気にしてしまうタイプなんだろう。

ましてや、桃香ちゃんの相手は、自分の幼なじみという贔屓目を除いても、顔が小さく背も高く、アイドルでも通用しそうな男の子。優くんだ。
それも、とても気が利き、みんなにも優しい。

彼女がいようが関係無しで、女子なら近寄ってくるだろう。

ほんの数秒でもお話が出来たらラッキーだろう。

これが桃香ちゃんの悩みの種。

しかし、桃香ちゃんがいい子過ぎる。
性格悪の独占欲強め、さらに独占欲強めのタイプなら、彼氏である優くんにはっきり言うだろうし、近寄ってくる女子どもにも強めにアピールするだろう。

ま、そんな事言って、肝心の優くんに嫌われたら、意味無いけど。

なんせ、優くんには悪気がない。
優くんなりにみんなと接していて、優しいのだ。

桃香ちゃんは、もちろん近寄ってくる女子に対して警戒はしつつ、そんなみんなに優しい優くんと割り切って付き合っているのだろう。

だから、普段の学校生活は疲れつつ、一緒にいられる、彼女としていられるだけで満足なんだろう。

帰りの新幹線の中で甦った記憶では、以前から優しい優くんは健在なのだ。

桃香ちゃんにとって、学校という共通点または2人にとっての日常から離れている私は、優くんの知り合いという共通点で唯一気兼ねなく話せる相手なんだろう。

だから、あんなに桃香ちゃんは私には優くんに対しての警戒心が無いのだろう。

あ、それとも、3人で一緒にいた時も幼なじみのくせに、優くんにあれだけつれない態度だったのが新鮮だったのかもしれない。
優くんが私とLINE交換しようと言った時も、桃香ちゃんがは「いいよ」って言ったのに、私は優くんとは交換しなかった。

きっと、学校の女子なら、桃香ちゃんの知らないところで、女子の方からLINE交換を求めてくるだろうし、仮に優くんの方から女子とLINE交換しようとするなら、その女子は喜んでするだろう。

それなのに、私は…
呆気なくお断りしたのを目の当たりにした桃香ちゃんは、逆にびっくりしただろう。

としているうちに、帰り放課がやってきた。

さ、部活行こう。