私はスマホの時計をちらっと見た。

午後1時過ぎ。

百草園に着いたのが、10時過ぎだったので約3時間が過ぎた。

そんな私を察知した桃香ちゃんは
「晴良ちゃんはいつまで居られるの?」

さすがだ。
こういう相手の微妙な仕草を桃香ちゃんは敏感に反応する。

「5時過ぎには向こうに着きたいからもうすぐかなぁ」

「えー。まだいいじゃん」
優くんがそう言うが、

「だって、だいたい3時間ぐらいかかるから」

「あ、わかる。おばちゃんのところに行くとき、ほとんどはパパの車で行くけど、たまに新幹線で行くとそのぐらいかかるよね」

「じゃあ、32分の特急があるよ」
そんな中でも…優くんは何気に聖蹟桜ヶ丘駅の時刻を調べてくれた。

「じゃあ、そろそろ」

そう言うと、優くんは3人のトレイを持って片付けに行く。

「まめだね。優くん」

「そうなのよぉ。優しいんだよね。優くん」

「でもさぁ。優し過ぎない?桃香ちゃんも大変だよね」

「そうなのよぉ。本当に。そう」
急に桃香ちゃんの語気が強まる。

「もしかして、優くん。みんなにもあんなに優しいの?」

「そう。本当にそう。さすがだぁ。晴良ちゃん。そこ気づく?」

「優くん。あんなに格好いいし、優しかったら女の子たち寄ってくるんじゃない?」

「そう。本当にそう。いろんな虫が寄ってくるし。あ、いろんな子ね」

さすがに熱くなった自分を静める桃香ちゃん。

「桃香ちゃん。優くんにはっきり言ったら?」

「ううん。それは…言えないよぉ。言ったら嫌な女でしょ」

「確かに」

「お待たせ。うん?何、ふたりで話してたの?」
優くんがトレイを片付けたボックスから戻ってくる。

「優くんが格好いいって話」

「はぁ?」

「優くんは優しいって話」

「はぁ?もう、行くよ」

「うん」

3人はマックを出て、駅に向かう。

「じゃあ、晴良ちゃん。またLINEしようね。今度、私が犬山行った時に会おうね」

「は?いつの間にLINE交換してたの?じゃあ、俺も」

私は桃香ちゃんを見る。

「別にいいんじゃない?優のお母さんと晴良ちゃんのママもLINEしてるんでしょ」

桃香ちゃんは晴良ちゃんならいいかって顔をしている。

確かにふたりの日常生活には私は居ない。
私は桃香ちゃんにとって近寄ってくる虫ではないみたいだ。

でも、違う。

なんとなくだけど、私と桃香ちゃんってよく似てるような気がする。
そして、桃香ちゃんと一緒にいて、すごく楽というか、気が合うというか…
優くんに桃香ちゃんを大切にして欲しい。

だから、私は優くんにこんなことを言ってしまう。
「結構です」

「ええっ。なんで?」
優くんはびっくりする。

「一緒にお風呂入った仲じゃん」
優くんは笑いながら言う。

お・ま・え・なぁ…

「晴良ちゃん。いいよ。別にLINE交換ぐらい。気を使わなくて」

「ううん。いい」

「ええっ」
優くんは拗ねた子供のようにがっかりしているが、笑顔でいる。

いいなぁ。
このふたり。
楽しそう。

「じゃあ、ありがとうね」

「うん。また会おうね」

「バイバイ」
優くんも軽く手をふる。

私は改札でICカードを当てる。
そして、ホームへの階段を上っていく。