せっかく、ママを騙してここまで来たのに。
私、何してるんだろ。

夏も終わり、急に夜は寒くなった。
昼はまだ暑いのに。

私が保育園に通っていた頃、私は今住んでいる所とは違う街に住んでいた。

今年から中学生になり、ふと何かを思い出した。
昔、住んでいた街に忘れてきたもの。

砂場。スコップ。バケツ。
砂のお団子。

そして、いっしょに砂場で遊んでいた男の子。

きっと、昔の思い出は勝手に美化されていると思う。
そんな事はわかってる。

でも、いつも遊んでいて、いつもお互いに笑っていて、お話をしていた。

ずっといっしょだった。

親は私が小学生になる時が良いタイミングだと考え、今の街に引っ越した。

賃貸マンションからの脱出。

仲の良かった友達もお別れ会を開いてくれた。
でも、それは誰かの親の発案だった。
表面上だけのお別れ会。

「お手紙書くね」
「また、会おうね」
「いつまでもお友達だよ」

耳障りのいい言葉が並んでいたが、それも小学生の低学年頃には消えていた。

そして、すっかり消えていた保育園の思い出が、昔の住んでいた街の思い出が、中学生になった今年の夏、急に私の脳裏に思い出されたのだった。

それは、中学生になって、違う小学校出身の菜々に部活動で出会って、仲良くなり、学校の内外でもいっしょにいるようになった。

そんな菜々が何気なく言ったひと言が、私を過去に戻したのだ。