僕が夜を好きになる話

「おい凪、聞いてんのかよ」

「え? あっごめん。ちょっと聞いてなかった。」

「はぁ…。お前最近ボーッとしてるよな。失恋でもしたんか?」

「はぁ?そんなわけねーだろ!好きな人だっていねぇのに!」

「あはは!ごめんごめん。そんなキレんなって、謝るからさ!ごめんな?」

正直、こういう会話は嫌いだ。
俺は中3の頃に不登校になった。
学校に行かなくなると当然、親から文句を言われる。口を開けば『学校に行け』だの『お前には私たちのようになって欲しくない』だの毎日言われると、こっちも精神が不安定になってしまう。
理由を話しても聞いてくれる親でもなかったので我慢するしか無かった。
適当に相槌打っとけば、『呆れて文句も言わなくなる。』そう思ってた。
だけど、親は俺の心を土足で踏み荒らしていく。
俺に理由も聞こうとせずに。
それから1年後、
高校生になったので、思い切って陽キャデビューした。
だが、元が陰キャだったので人と何を話せばいいのか分からなかった。
もちろん、時間が経って友達も増えた。
だが、恋愛などの話は気乗りしない。
恋愛なんてしたことも無いから…。

「それより凪さ〜、お前って夜とかは何してんの?」

「夜?俺は、夜が好きじゃないんだよ。日が沈んだら直ぐに寝るようにしてるの。」

「え〜!?もったいなっ!ゲームとかすればいいのに〜。」

「お前とは違うんだよ。要」

「おぉ〜、言うね〜!凪のくせに〜。」

俺が夜を好きになれない。
だって夜怖いもん。暗いし。
そんな俺が、夜に眠れなくなってしまった。

「なんで、眠れないんだ…。」

怖い。知らない人が見ている。そんな気がしてしまって。

「少し外を歩くか…。すげぇ怖ぇけど。」

思い切って外に出た俺は、当てもなく歩いた。
気づいた時には、学校の近くのビルの屋上にいた。

「〜〜〜♪」

「…っ」

誰もいないと思っていた屋上には、一人の女性が居た。

「あんた、こんな時間に何やってんの?」

「……。」

『なんだよ。ジロジロ見てきやがって。』

「……。」

こいつの目は人を見透かしているような目をしていて少し、気味悪かった。

「あんた、よくここに来んの?」

「人生に疲れた時に、ここに来たくなっちまうんだよ。つーか、ガキがこんな時間に出歩いてんじゃねぇよ。警察に捕まっちまうぞ〜。」

なぜだろう。言葉遣いも悪くて、眼も気味悪いけど、不思議と嫌な気はしなかった。
しばらく談笑をした後に女性はこう言った。

「なぁ、ガキんちょ。」

「ガキじゃねぇよ。高一だわ。」

「あたしからしたら充分、クソガキだわ。」

「はいはい。それと俺の名前はクソガキじゃない。凪って名前だ。」

「……凪、お前は夜が嫌いか?」

「好きか嫌いかで聞かれたら、正直あまり好きじゃないな。俺が、夜に外に出たのも今日が初めてだ。
眠れなくて歩いてたら、ここに居たんだ。」

「あたしはな、夜が好きなんだ。」

「…。」

「会社の上司の悪口吐いても、学校のクラスメイトの悪口吐こうが、全部夜が飲み込んでくれるんだよ。」

「」

「凪、お前は夜が嫌いなんだろ?」

「好きじゃないってだけだ。」

「素直でよろしい。
んで、お前みたいなガキがこんなとこ来るなんて、どうせ学校とか親への不満が溜まりに溜まってるからだろ?」

「………。」

「お前の本音、全部ここでぶちまけるんだよ。
嫌いな奴の悪口や、些細なことでもいい。嫌いな先生の事でもいいから少しずつ、少しずつでいいから吐き出してみろよ。少しは楽になれると思うぜ?」

「はは…あんた、良い奴なんだな。」

自分が無理していたことや、親への事も、学校の奴らの愚痴も吐き出した。

「よっ!やっと起きたか?」

「んぁ、あれ?寝てた…?」

「あぁ、それはもう可愛いくらいぐっすりと。」

「恥ずかしいからやめてくれ。」

「照れなくてもいいのによぉ。」

「でもありがとう。あんたのおかげで、気持ちが楽になったよ。」

「凪は夜の事、好きになれたか?」

「胸張って好き。とは言えないけど、少しは好きになれたと思う。これは、あんたのおかげでもあるぜ。」

「あたしは少し凪の愚痴を聞いただけさ。」

「これからは、自分と向き合って生きてみるよ。」

「よく言ったガキんちょ。たまにはいいこと言うじゃんかよ〜!」

「なっ?!だから、ガキんちょじゃねぇ〜って!」

「はいはい。わぁーってるよ。」

それから俺は、毎日あの屋上に足を運ぶようになってた。
あの女性と過ごすのは、悪い気はしなかったから。
俺は、あの女性のことが好きだったんだと思う。
でも、俺はあの人のおかげで思い出すことが出来た。
俺は自分に素直に生きていなかっただけなんだって。
彼女と過ごす日々が、

僕は心地よかった。