補講を進めているうちに、いつのまにか周りは文化祭の準備で忙しい雰囲気になっていた。

「真琴ちゃん! 手が空いたら被服室来てくれる? 衣装の採寸したいから」

教室で看板作りの手伝いをしていると、衣装班の女子がそう声をかけてきた。

「わかった! すぐ行くね」
「まこちゃん、行っていいよ」
「ありがとう」

そう促されて、被服室へ向かう。
途中、廊下のある場所で足が止まった。

「……伊織だけ明らかに不服そう」

壁のポスターを見て苦笑する。
そこには今年のミスター&ミスコンテストの候補者の名前と写真が張り出されていた。
今年は女子が8人、男子が6人だ。
みんな表情を作っているのに、唯一ムスッとした写真が伊織だった。
薫が言っていた通り、今年も勝手にエントリーされたんだろうな。

「真琴ちゃん、なぁに見てんの?」

後ろから明るい声で話しかけられ振り返った。そこには段ボールを持った相模肇のがいた。

「肇君。肇君のクラスは何やるの?」
「うちはタコ焼きと焼きそば、フランクフルトの3つの班に分かれてやるよ。俺はタコ焼き班。食べに来てね」
「わぁ、ザ・お祭りって感じでいいね。行く行く!」
「お、伊織だ」

ポスターを見て肇君がニヤッと笑う。

「毎年、辞退しても辞退しても何故かエントリーされるからもう諦めたって言ってたな。気の毒だよな~」

全く気の毒なんて思っていなさそう。
伊織は人気あるからね。女子がほおっておかなそう。

「男は伊織がやっぱり一番人気らしいぜ。女子はこの子」

肇君が指を指した子を見る。

「可愛い……」

小顔で大きい瞳、赤い小さな唇。髪は長くて緩くウェーブがかかっていた。
確かに、女子の候補者の中ではずば抜けて可愛い。
学年は……、あ、一年生だ。

「川口日葵(かわぐちひまり)ちゃん……」
「はい」

写真の女の子の名前を呟いた途端、すぐ横で返事をされた。

「わぁ!」

驚いてのけ反ると、隣には写真の可愛い女の子がニコニコしながら立っていた。
細身で小柄。髪はフワッと背中まで長くて、目がくりくりしている。
写真で見るより、実物はもっと可愛かった。

「ミスコンエントリーしました。投票、よろしくお願いします」
「あ、はい。頑張ってね」
「はぁい」

笑顔で返事をして、一緒に来たであろう友達たちと3年生の廊下を進む。
どうやら投票のための売り込みに来たようだった。
日葵ちゃんは「あ、そうだ」とくるりんと可愛く振り返った。

「綾川先輩。伊織先輩によろしくお伝えください」
「え?」

日葵ちゃんはそう言うとさっさと行ってしまった。
私は隣でキョトンとしていた肇君を見あげる。

「伊織の知り合い?」
「え~……、どうだろう」

肇君も首を傾げていた。
なんだろう、日葵ちゃんを見ると胸がざわざわする……。
妙な胸騒ぎを覚えた。