休学していた分の補講が終わり、家に帰ると伊織がリビングで妹の莉奈ちゃんとテレビを見ていた。

「ただいま」
「あ、真琴お姉ちゃん! お帰りなさい」

莉奈ちゃんが嬉しそうに笑顔で振り返る。
そして、トトト~と小走りで扉の方へ行き、「ママとテレビ電話するから部屋に戻ってるね」と言って出ていった。
莉奈ちゃんの母親である春香さんは、体が弱いので海外で療養している。ふたりは1日に一回、必ずテレビ電話をしているようだった。

「着替えてきたら?」

すでにラフな部屋着に着替えている伊織にそう促されて私も部屋へ戻る。
トレーナーにズボンという楽な服に着替えてからリビングへ戻ると、伊織がココアを入れて待っていてくれた。

「どうぞ。お疲れ様」
「ありがとう」

ソファーで、甘くて暖かいココアを1口飲むとホッと安らぐ。伊織も飲み物を持って隣に座った。

「そうだ。今日、薫に文化祭の話を聞いたんだけど、伊織も接客班なんでしょう?」
「あぁ。俺は衣装やお菓子を作る暇がないからな。自動的に接客班になった」

本当はそれだけが理由じゃない気がするけど……。伊織が接客するだけで、人が溢れそう。
まぁ、自分が手掛けたブライダルの仕事もあるからね。忙しいよね。

実際、衣装班や調理班はエスカレーターで付属大学へ進学する人で、あまり受験勉強が大変ではない人がほとんどだ。
接客班は、外部受験を目指していたり、伊織のように忙しいなど理由がある人が多かった。
3年生に飲食模擬店が多いのはそういった班分けがしやすく、接客班になった子達への気遣いがあるのだという。
反面、1、2年生はお化け屋敷やゲーム、迷路などイベント系をやるクラスが半分を占めるそうだ。

「あのさ、私も接客班なんだ。それでね……、その、良かったらなんだけど」

一緒に回らない?
そう言うだけなのに、言葉に詰まる。
誘うだけなのに、なんでこんなにドキドキするの!?
チラッと伊織を見ると、微笑みながら私を見ていた。

「言いたいこと……、わかってるでしょう?」

聞くと「いや?」と首を横に振られた。
嘘だ! その顔は絶対にわかってる!

「わからないから、言って?」

どこか甘えるような響きを持たせる、可愛らしい言い方にキュンとする。
そんな言い方をする伊織はほとんど見たことがない。
可愛い。あざとい。

「言って、真琴」

伊織はジリジリと詰めてきて、いつの間にかピッタリ隣にくっついていた。

「い、伊織!」
「何?」

余裕のある声色で、私の手に持っていたコップをテーブルにそっと置いた。

「高校生活、最後の文化祭……。どうしたい?」
「どうしたい!? えっと、あの……」
「言って……」

伊織の指が顎にかかる。
だめだ、もうこの甘い雰囲気に溶けてしまいそう。

「一緒にいたい……」
「いいよ……」

そのまま伊織に、唇を奪われた。