翌日。

薫から聞いていた、"あの温厚な雨宮伊織が昨日の記事にぶちギレて新聞部をしめた"という噂はあっという間に広がっていた。
写真を撮られたことに恥ずかしくて照れて怒ったのではなく、恋人を悲しませたくないから怒っていたと。
その為か、学校へ行くと注目の的だった。

「付き合っているって本当だったんだね」
「好きな人のために怒ったなんて伊織様素敵~」
「真琴先輩ってあの人? イメージと違う~」

などなど、言われたい放題。

「まさか伊織がそんなことするなんてね~。他人や物事にあんなに興味がなかった奴が、真琴ちゃんのためなら怒るんだねぇ」

昼休み。食堂のテラスで、肇君がニヤニヤしながら伊織をからかった。
伊織は無言で肇君を一瞥する。

「誇張されているだけだ。俺は怒鳴っていない」

そう言う伊織に薫が吹き出す。

「いやいや、目撃者の話だと結構激怒していたって聞いたよ。真琴のために怒ったんでしょう、やるじゃん」

幼馴染みという間柄か、なんか容赦なくはっきり言うなぁ。
あまりにもずけずけと物言いされて、伊織はどこか面白くなさそうな表情を見せるが言い返さない。

「それだけ、真琴が大切にされているってことでいいんだよね」
「……言わせるな」

伊織が恥ずかしそうに呟く。
それを聞いて赤くなるのは隣にいる私だ。
肇君と薫は声をそろえて「ごちそうさま」と私達に行った。
でも、正直そんな伊織の気持ちが嬉しかった。
新聞の記事についてはまだショックで思い出したくない程だけど、伊織が怒ってくれたと言うことに関しては素直に嬉しい。

すると、中の食堂が騒がしくなり、振り返ると日葵ちゃんがテラスに入ってくるところだった。
表情が険しい。

「伊織先輩、お話があるんですけど」

席まで来て、そう言う日葵ちゃんに伊織は黙って顔を上げる。

「なにかな」
「昨日、風間専務から連絡がありました。私のモデル起用は年末までです。それまではまだ撮影もあったはずです。それなのに、契約解除とはどういうことですか!」
「え……」

契約解除!?
風間専務って、風間さんのことだよね。
少し前までは告白の件とモデルの件は別で考えてほしいとかなんとか言っていなかった?
それが急にクビってこと?
驚きで目を丸くしていると、伊織は静かに席を立った。

「ここは学校だ。仕事の話なら事務所で聞くけど?」
「事務所って……、社長である先輩が目の前にいるんだからいいじゃないですか。契約解除の件、真琴先輩から何か言われたんですか? だから急にこんなことになったんですか?」

日葵ちゃんはやや興奮気味だ。
食堂やテラスにいる人たちも、もめているこちらの様子をチラチラと見ている。