「ちなみに、雨宮も接客班にしといたよ」
「本当!?」

パッと顔を上げると、薫がニヤニヤしながらこっちを見ていた。

「接客時間を一緒にしたら、休憩時間に校内回れるね」
「いや、あの……、うん」

恥ずかしくてしどろもどろになりながらも、素直に頷いた。

「ねぇ、薫。あのこと……、秘密にしててね」
「あのこと?」
「あの、私と伊織が……、その……」

ここは学校で、しかも人の多い学食だ。
実は伊織とは結婚しているということは、言葉に出すのもはばかられる。

「わかってるって。雨宮にもちゃんと事情は聞いてる。誰にも言わないから安心して」
「ありがとう、薫」

薫は人の事情をペラペラと話すような人ではないとわかってはいるが、念には念を入れないと。
ホッとして昼食で食べていた和食セットの味噌汁をすする。

「じゃぁ、真琴もエントリーする?」
「ん?」

なにが『じゃぁ』で『エントリーする』なんだ?

「今年もミスターは確実に雨宮だろうし。そうなるとミスになって隣に立つのは自分が良いって思うよね」

薫は納得したように1人で頷いている。

「ミスター? ミス?ってなんの事?」
「ん? あぁ、真琴はうちの文化祭初めてだから知らないのか。毎年、文化祭で学校一のミスター&ミスコンテストがやるのよ」

ミスコンならよく聞くけど、ミスターっていうことは男子も出るのか。

「去年、一昨年とミスターは雨宮。今年も選ばれるでしょうね」
「伊織、出てるの?」
「本人の意思とは全く関係ないところで、勝手にエントリーされてるのよ」

伊織……、なんとも気の毒に。

「だから、真琴も出るのかなって思って」
「出ません」

そこは食いぎみに言い切った。
絶対選ばれるわけないもん。エントリーするだけ恥だわ。

「まぁ、今の2人にとってはコンテストなんてどうでもいいか」

薫は「ねー?」とからかうような笑顔でそう言った。