伊織と二人で回る文化祭はとても楽しかった。
お化け屋敷やゲーム、部活の展示や出店の食べ物など校内を歩き回る。

「あ、真琴ちゃん、伊織。うちのも食べて行ってよ」

肇君が校庭でタコ焼きを焼きながら、私たちに気が付くと手を振って呼んだ。
タコ焼きの美味しそうな匂いがする。

「わぁ、肇君。焼くのが上手だね」

器用にクルクルとたこ焼きを回している。

「相変わらず器用だな」

伊織が感心したように肇君の手元を見ている。

「そりゃぁ、練習したからね。はい、おまけ付き」

二つ大目に入れてくれた。出来たてで鰹節が踊っている。

「ありがとう」
「伊織……、お前本当に女装が似合っていたぞ」
「マジでやめろって」

恥ずかしそうに、頬を染めながら言う肇君に伊織が引きつる。

「別に今の時代、そんなの恥ずかしいことじゃないって。ねー、真琴ちゃん」
「女装自体は否定しないし、それは個人の自由だが俺は好まないってだけだ」
「まんざらでもなかったくせに」

肇君の挑発に、伊織はフンと鼻を鳴らす。

「お前と違って、俺はなんでも似合うからな」

じゃぁな、と手を振って歩き出す。
肇君は「またね~」と笑顔で手を振ってくれた。
この二人は親友だからか、時々遠慮がない。でもどこか楽しそうなんだよね。男の子ってそんなものなのかな。
すると、遠くから「伊織先輩ーー」と大きな声で手を振る人物が見えた。

「え……」

日葵ちゃんがミニスカートでメイドのようなフリフリ衣装を着て、クラスの看板を持ちながらこちらに手を振っている。

「伊織先輩! 良かったらうちのクラスに寄っていきませんか」

日葵ちゃんは私を押しのけ、伊織の腕を掴む。

「川口さんのクラスは何を出しているの?」
「スタンプラリーです! 各ポイントにいる先生にスタンプを貰って、景品をゲット出来るんです。先輩、私とやりましょう!」
「えぇっ!?」

日葵ちゃんはまるで私なんか見えていないかのように、勢いでゲームを初めてスタートしてしまった。

「ちょっと!」
「綾川先輩は少しそこで待っててくださーい」

呆気にとられている伊織を引きずるように教室を出ていった。
なんか、あっという間だった。
勢いって凄い……。
日葵ちゃんに感心しつつ、『告白する』という言葉を思い出した。
日葵ちゃん……、このタイミングで伊織に告白するつもりなのかな……。
伊織はきっと断るだろうけど、なんか面白くない。それに、凄く気になる。

「……よし!」

私は慌てて2人を追いかけた。