そして、ついに文化祭当日。

「アリスの衣装、みんな可愛いー」

接客班の女子が着替えると、衣装班や調理班の子たちがキャーキャーと褒めてくれた。
衣装合わせの時よりも細かい装飾が施され、こだわりが見えてより本格的なアリスになっている。
というより、本物のアリスより部分的に豪華な気が……。

「そろそろ開店するよー」

声かけで扉を開けると、ぞろぞろと生徒が入ってきた。
オーダーを取りながら、あっという間に忙しくなってきた。
女子率が高い……。伊織目当てだろうなぁ。
あれ? 伊織は?

「あ、ねぇ薫。伊織、知らない?」

教室の前で列の誘導をしている薫に声をかける。
一緒に登校したのに、着替え以降、姿を見ていないのだ。

「あぁ、雨宮なら……」

薫が言いかけた時。
廊下の奥がざわついた。そのざわつきはどんどんと近づいてくる。

「なに……」

注目の方に目をやり、奥から歩いて来る人物に声を失った。
髪は夜会巻にして頭にティアラを着け、赤いドレスを身にまとっている。ハートの女王の姿をした、背の高い美女が歩いてきたのだ。
あまりの迫力と美しさに、みんな声を失い見とれてる。

「女王陛下、こちらです」

ウサギの格好をした男子が恭しくうちのクラスに誘導し、黒板の前の豪華な椅子に案内する。
女王陛下は椅子に座って、気だるい感じに頬杖をついた。
その仕草が、ハートの女王らしさをかもし出している。
私と目が合うと、女王は気まずそうに視線を逸らした。
そこでハッとする。

「薫、まさかハートの女王って……!!」
「そう、雨宮伊織よ」

薫が声高に言いながら笑うと、教室から割れんばかりの黄色い歓声が響き渡った。

「はい、このテープからは近寄らないで下さい。みんな席から写真を撮ってくださいね。女王にはお手を触れず!」

お付きのウサギ二匹が忙しそうに護衛をしている。
伊織はどこかむすっとしながらも、静かに席に座っていた。
伊織の衣装ってこれだったのか。
どうりで言いたがらないわけよ……。
そう思いながらも、こっそりと写真をとる。
後で、春香さんや莉奈ちゃん、風間さんにも見せなきゃ。お義父様に見せたら卒倒するかしら。
というか、本当に綺麗で一瞬伊織ってわからなかった。
目元はつけまつげにアイライナー、ファンデーションもして赤いリップをつけている。これは女子顔負けの化け方だわ。