翌日。
日葵ちゃんは宣言通り、積極的にアピールを始めたようで朝から伊織の前に現れた。
「伊織先輩、おはようございます」
日葵ちゃんは笑顔で教室の入り口に立っていた。そして、失礼しまーすと伊織の席までやってきたのだ。
「先輩、今日のお昼休みにミスコンの打ち合わせがあるそうですよ」
「あぁ、生徒会から聞いてるよ」
「さすが、情報早いですね。良かったら、一緒に行きませんか?」
ふふふ、と微笑む日葵ちゃん。
「一緒に?」
「はい。良かったらお昼も一緒にどうですか? 優勝候補同士で色々とお話もしたくて」
「いや、昼は遠慮しとく」
伊織が断ると日葵ちゃんは可愛く頬を膨らませた。
「えー、どうしてですかぁ?」
「昼は真琴たちと食べてるから」
「綾川先輩と……?」
そう呟いて、隣の席にいる私にチラッと視線を送る。
睨まれたわけじゃないのに、なんだか怖い。
「ふぅん。わかりました。じゃぁ、打ち合わせには一緒に行ってくれますか?」
「まぁ、それくらいなら」
「やった! じゃぁ、また昼休みに」
日葵ちゃんは嬉しそうに微笑んで教室を出ていった。
2人のやりとりを一緒に見ていた薫が無言で「なにあれ?」という視線を送ってくる。
だよね、そう思うよね……。
私の表情を見て、なんとなく察したのか薫は眉間に皺を寄せて伊織を見る。
「雨宮、あの子と知り合いなの?」
「昔、親父のパーティーで会ったことがある。家具メーカーのご令嬢だ」
それで、この前親しげに話をしていたのか。
「それだけ?」
「どういう意味だ」
「雨宮、あんた変わったね。昔ならその程度の知り合いにはもっとクールだった。特に女子には」
「そうか?」
はぁ、と薫はため息をついて伊織を見ながら私の頭を撫でる。
「愛想良くなったのは真琴の影響で良いことだけど、不安にさせないでよね」
「? わかってるよ」
伊織は首を傾げながら答える。
薫は小声で「真琴も苦労するね」と呟いた。



