私、綾川真琴(本名、雨宮真琴)が朝、目覚めて一番最初にすること。
それは……。

「ふふふ」

何度見ても笑みがこぼれる。

「綺麗……」

机に置いてあったケースから指輪を出して、そっと左手の薬指にはめる。
そして手をかざして眺めるのだ。
伊織に貰った婚約指輪。
学校には着けていけないから、毎朝こうして指にはめてはニヤニヤしている。
結婚指輪は高校卒業して、二人の結婚を発表してから作ろうと話し合って決めた。
あと半年後。それも楽しみだ。

「何ニヤニヤしてんの」

声がしてハッと振り返る。
部屋の入口が少し開いており、伊織が苦笑しながら立っていた。

「ちょっと、驚かさないで~!」

慌てて指輪をしまう。伊織は構わず部屋の中に入ってきた。

「嬉しそうだからつい。毎朝そんなことしてたんだな、真琴」
「いや、これは、その……」
「早く堂々と、ここに着けたいな」

そう言って私の左手薬指をそっとひとなでする。
そんなことを言われて、私は真っ赤だ。

「朝からそんな顔するなよ。襲いたくなる」

伊織はチュッと軽くキスをすると、部屋を出て行った。

私はその場でへたり込む。
誰があんな伊織を想像しただろうか。

私たちは半年前、親の仕事の都合による政略結婚をした。
それからこの雨宮家の屋敷で一緒に住んでいるが、あんな甘い伊織なんて見たことがない。
離婚騒動があり、一度離れたけどお互いに気持ちを確かめあった。
そして、伊織からのプロポーズ。もう一度、やりなおそうと決めてから。
そう。あれ以降、伊織はわかりやすいくらいに私に甘くなったと思う。
恥ずかしいけど、実はすごく嬉しい。
伊織に愛されているんだなって感じる。
ただ!

「耐性がないんだよねぇ……」

男の子とまともに付き合ったことがないまま伊織と結婚したから、甘い雰囲気とかに慣れていない。
いつか心臓が壊れてしまうんじゃないかな。
そう思いながら、気持ちを落ち着かせるために大きく深呼吸をした。